「アリアドネか……?」

エルウィンは虚ろな声で尋ねた。

「はい、そうです。私です」

「そうか……」

フッと笑みを浮かべるエルウィン。

「!!」

酔いで赤らんだ顔に潤んだ瞳。いつもとは全く違いながらも妙に色気を感じさせるエルウィンの姿にアリアドネは思わず赤面してしまった。

「夢の中でも……お前が出てくるとはな……。それほど俺はお前のことを……」

そして目を閉じるエルウィン。

「え……?」

(な、何……? エルウィン様は一体何を言うつもりなのかしら……?)

アリアドネはドキドキしながら次のエルウィンの言葉を待つも、エルウィンからは反応がない。

「あ、あの? エルウィン様……?」

「すー……」

目を閉じたエルウィンから静かな寝息が聞こえる。

「あ……眠ってしまわれたのね……」

 そこでアリアドネは再度、眠っているエルウィンにダウンケットを掛けてあげると、部屋の片付けを再開した――


****


「ふぅ……こんなものかしら?」

掃除の為にまくっていた袖を下ろし、結わえていた髪を解くと部屋をグルリと見渡した。

「綺麗になったわね。今何時かしら?」

時計を見ると、既に深夜0時になろうとしていた。

「大変、掃除に夢中になってこんな時間になってしまったわ」

アリアドネは部屋の明かりを消して周り、最後にエルウィンのベッドサイドテーブルに置かれたオイルランプに明かりを灯した。

エルウィンの様子を見ると、静かな寝息を立ててよく眠っている。

「具合は良さそうね……。エルウィン様、ゆっくりお休みくださいね」

その時――

「う〜ん……」

エルウィンが大きく寝返りを打ち、ダウンケットがはだけてしまった。

「あ、いけないわ」

はだけたダウンケットを掛け直したときに、アリアドネの髪がエルウィンの顔にパサリと落ちた。

「う……」

エルウィンがパチリと目を開けてしまった。

「あ! も、申し訳ございま……え?」

突然エルウィンが右手首をつかみ、自分の方へ引き寄せてきた。

「キャアッ!」

はずみでベッドに倒れ込むアリアドネ。そこをエルウィンが強く抱きしめてきた。

「!!」

ベッドの上で胸に埋め込まんばかりに強く抱きしめられている状況にアリアドネの頭はパニックになっていた。

「あ、あの……エ、エルウィン様。放して下さい……」

何とか逃れようとしても、エルウィンの力に敵うはずはなかった。ますます強く抱きしめられてしまう。

(そ、そんな……どうしよう……!)


 その時――

「アリアドネ……」

エルウィンが髪に顔を埋めてきた。熱い吐息が頭にかかり、ますますアリアドネは恥ずかしさが込み上げてきた。

「やはり……お前の身体は良い香りがするな……」

「え?」

(香り……香り!? た、ただ石鹸で身体を洗っているだけなのに……?)

「夢なのに……やけにリアルだ……」

そしてエルウィンはますます強くアリアドネを抱きしめてきた――