結局、エルウィンは離宮に到着するまで終始無言だった。アリアドネはエルウィンの元気の無い様子が気になったが、とても声をかけられる雰囲気では無かったので気まずい雰囲気の中……馬車は離宮に到着した。


 エルウィンにエスコートされて馬車を降りると、すぐに騎士達が扉を開けて出迎えに現れた。

「お帰りなさいませ!」
「夜会はいかがでしたか?」
「楽しかったですか?」

 騎士たちは次々と声をかけるもエルウィンは「ああ」とか「うむ」といった返事をするだけであった。
挙げ句に「先に部屋に戻っている」と言い残し、さっさといなくなってしまったのである。

 騎士たちはエルウィンが去っていく後ろ姿を見届けると、 今度は一斉にアリアドネに声をかけてきた。

「アリアドネ様、一体夜会で何があったのですか?」

「エルウィン様のあの様子……普通じゃありませんよ!?」

「あんな姿……初めて見ました!」

一方、困ってしまったのはアリアドネの方だった。

「あの……それが私にもさっぱり分からなくて……。エルウィン様は突然あのようになってしまって……」

するとマティアスが尋ねてきた。

「アリアドネ様、エルウィン様がああなる前に何か直前にありませんでしたか?」

「そう言えば……王太子殿下に誘われてダンスを踊りました……」

『ダンス!?』

その場にいた騎士全員が声を揃えた。

「ああ……なるほど」
「だからか、ウンウン」
「それでああなったのか……」

騎士たちが頷く様子にアリアドネは戸惑った。

「あの、一体どういうことでしょうか? 私が殿下とダンスを踊ったことと何か関係があるのでしょうか?」

『え……?』

今度は騎士たちがアリアドネの質問に戸惑うのだった――



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 結局あの後アリアドネはドレスを着替える為にエントランスを後にし、騎士たちは全員談話室に集まり話をしていた。

「それにしても参ったな。エルウィン様は女性の接し方が全く分からない方だからな……」

「あの分だと、アリアドネ様に自分の気持ちが伝わっていないぞ?」

「いやいや、それを言うならアリアドネ様もかなり鈍いかもしれない」

「確かにそうだな。俺たちですらエルウィン様がアリアドネ様に好意を寄せているのが分かるのに……」

「肝心の本人は全く気づいておられないのだから」


 そんな騎士たちの会話を少し離れた場所で聞いていたのはマティアスとカインである。

「マティアス様、どうします?」

「そうだな……やはりアリアドネ様にはエルウィン様が何故落ち込んでおられるのか理由を伝えておいたほうがいいかもしれない」

「では、僕が伝えてきますよ」

カインはアリアドネの乗る馬車の御者をしているだけあり、この中では一番親しい間柄といえた。

「そうだな。カインから伝えてもらうのが一番かもしれない。エルウィン様があの様子では、調子が狂って仕方がない」

「ではすぐに伝えて参ります」

カインは椅子から立ち上がった。

「そうだな。俺はエルウィン様の元へ行く」


 こうして、カインとマティアスは2人の為に動くことにしたのであった――