「え? あ、あの……それは……」
アリアドネは口ごもってしまった。
(こんなに素敵なドレスを着て夜会に参加しているのにダンスを踊れないなんて、恥ずかしくて言えないわ……)
するとエルウィンが代わりに返事をした。
「何故ダンスを踊らないかですか? そんなことは決まっています。我々はダンスを踊れないからですよ」
「エ、エルウィン様!?」
まさか正直にエルウィンが答えるとは思わなかったので、アリアドネは狼狽えてしまった。
「え? そうだったのですか?」
王子はその言葉に目を丸くする。
「ええ、そうですよ。お忘れですか? 私は辺境伯ですよ? この国を守る砦となって日々戦いに身を置いているのです。そんな状況でダンスを踊れるとでも?」
どこか嫌味を含んだエルウィンの言葉に王子はひるむこと無く笑った。
「そうですね。言われて見れば確かにそうだ。我々が安心して暮らしていけるのも辺境伯がこの国を守ってくださっているからだ。感謝しておりますよ」
「いえ、当然の役目ですから」
次に王子はアリアドネに声をかけた。
「アリアドネ嬢は何故踊らないのですか?」
「え? な、何故私の名前をご存じなのですか?」
首を傾げるアリアドネに王子は笑いかけた。
「ええ、それはこちらの辺境伯が貴女の名前を教えて下さったからですよ」
(何だって!?)
勘違いされそうな王子の言い回しにエルウィンはギョッとした。
「え? そうなのですか?」
「あ、ああ……そうだな」
本当は思い切り否定したいところだが、相手はこの国の王太子。下手な事は言えなかった。
「それで、何故踊らないのです?」
王子は再度アリアドネに尋ねる。
「そ、それは……」
「殿下、それ以上は……」
思わず、エルウィンが割って入ろうとした時――
「もしや、ダンスが苦手なのでは?」
王子の方から理由を言い当てた。
「え、ええ。お恥ずかしいながら、そう……です」
「それなら私が踊りながら教えてあげましょう」
そして王子はアリアドネに右手を差し伸べた。
「「え!?」」
その言葉にアリアドネだけでなく、エルウィンも驚いた。
(何て王子だ! 俺が踊れないのをいいことに……眼前で、アリアドネにダンスを申し込むとは……!)
相手が王子で無ければ、恐らくエルウィンは間違いなく剣を抜いて相手に向けていたであろう。
その衝動を必死で押さえる。
「あ、あの。ですが私はエルウィン様と一緒に夜会に参加しておりますので……」
アリアドネはエルウィンが怒りを抑えているのをヒシヒシと感じながら王子に断りを入れる。
「ああ、辺境伯の顔を伺っておられるのですね? しかし、ダンスのパートナーが途中で変わるのは良くあることですから」
王子はニコニコしながらアリアドネを見つめている。そんな様子をエルウィンはイライラしながら見ていた。
(ダンスのパートナーが途中で変わるのは良くあることだと? 俺は一度もアリアドネとダンスを踊ってはいないのに!?)
「で、でも……」
すると、王子はエルウィンに尋ねた。
「辺境伯、どうかこの私にアリアドネ嬢とダンスを踊る機会を貰えるかな? 折角このように美しいドレスを着ているのにダンスを踊らないのは、あまりにも勿体なさすぎだ。私なら丁寧に教えることが出来ますよ」
「……分かりました。私の方は構いません。アリアドネさえよければね」
相手はこの国の王太子。当然エルウィンが反対できるはずもない。
「ありがとうございます。では、アリアドネ嬢。参りましょう」
「あ……は、はい」
王子の誘いを断ることの出来ないアリアドネは差し出された手に自分の右手を乗せると、ホールへと連れ出されて行った。
こちらをじっと見つめるエルウィンに後ろ髪を引かれつつ――
アリアドネは口ごもってしまった。
(こんなに素敵なドレスを着て夜会に参加しているのにダンスを踊れないなんて、恥ずかしくて言えないわ……)
するとエルウィンが代わりに返事をした。
「何故ダンスを踊らないかですか? そんなことは決まっています。我々はダンスを踊れないからですよ」
「エ、エルウィン様!?」
まさか正直にエルウィンが答えるとは思わなかったので、アリアドネは狼狽えてしまった。
「え? そうだったのですか?」
王子はその言葉に目を丸くする。
「ええ、そうですよ。お忘れですか? 私は辺境伯ですよ? この国を守る砦となって日々戦いに身を置いているのです。そんな状況でダンスを踊れるとでも?」
どこか嫌味を含んだエルウィンの言葉に王子はひるむこと無く笑った。
「そうですね。言われて見れば確かにそうだ。我々が安心して暮らしていけるのも辺境伯がこの国を守ってくださっているからだ。感謝しておりますよ」
「いえ、当然の役目ですから」
次に王子はアリアドネに声をかけた。
「アリアドネ嬢は何故踊らないのですか?」
「え? な、何故私の名前をご存じなのですか?」
首を傾げるアリアドネに王子は笑いかけた。
「ええ、それはこちらの辺境伯が貴女の名前を教えて下さったからですよ」
(何だって!?)
勘違いされそうな王子の言い回しにエルウィンはギョッとした。
「え? そうなのですか?」
「あ、ああ……そうだな」
本当は思い切り否定したいところだが、相手はこの国の王太子。下手な事は言えなかった。
「それで、何故踊らないのです?」
王子は再度アリアドネに尋ねる。
「そ、それは……」
「殿下、それ以上は……」
思わず、エルウィンが割って入ろうとした時――
「もしや、ダンスが苦手なのでは?」
王子の方から理由を言い当てた。
「え、ええ。お恥ずかしいながら、そう……です」
「それなら私が踊りながら教えてあげましょう」
そして王子はアリアドネに右手を差し伸べた。
「「え!?」」
その言葉にアリアドネだけでなく、エルウィンも驚いた。
(何て王子だ! 俺が踊れないのをいいことに……眼前で、アリアドネにダンスを申し込むとは……!)
相手が王子で無ければ、恐らくエルウィンは間違いなく剣を抜いて相手に向けていたであろう。
その衝動を必死で押さえる。
「あ、あの。ですが私はエルウィン様と一緒に夜会に参加しておりますので……」
アリアドネはエルウィンが怒りを抑えているのをヒシヒシと感じながら王子に断りを入れる。
「ああ、辺境伯の顔を伺っておられるのですね? しかし、ダンスのパートナーが途中で変わるのは良くあることですから」
王子はニコニコしながらアリアドネを見つめている。そんな様子をエルウィンはイライラしながら見ていた。
(ダンスのパートナーが途中で変わるのは良くあることだと? 俺は一度もアリアドネとダンスを踊ってはいないのに!?)
「で、でも……」
すると、王子はエルウィンに尋ねた。
「辺境伯、どうかこの私にアリアドネ嬢とダンスを踊る機会を貰えるかな? 折角このように美しいドレスを着ているのにダンスを踊らないのは、あまりにも勿体なさすぎだ。私なら丁寧に教えることが出来ますよ」
「……分かりました。私の方は構いません。アリアドネさえよければね」
相手はこの国の王太子。当然エルウィンが反対できるはずもない。
「ありがとうございます。では、アリアドネ嬢。参りましょう」
「あ……は、はい」
王子の誘いを断ることの出来ないアリアドネは差し出された手に自分の右手を乗せると、ホールへと連れ出されて行った。
こちらをじっと見つめるエルウィンに後ろ髪を引かれつつ――



