2人は立食テーブルで食事を取りながら、貴族たちがダンスを踊っている様子を眺めていた。

「……」

エルウィンは食事をしながら、アリアドネの様子を伺った。アリアドネはじっとダンスをしている人々から視線をそらさない。

その姿を見て、エルウィンは焦りを感じていた。

(まさか……アリアドネはダンスを踊りたいのか!? ダンスを踊れない俺を情けない男だと思っているのじゃないだろうか? ここが戦場なら俺の剣技を全員に披露することが出来るのに。そうすればアリアドネだって、多少は俺のことを見直すかもしれないのだが……)

しまいにエルウィンは心の中で物騒なことを考え始めていた。
一方のアリアドネはまるでエルウィンの存在を忘れているかのように熱心にダンスの様子を見ている。
それがますます気になって仕方なかった。

(こうなったらアリアドネに彼らが羨ましいか、直接尋ねよう。大体、あれこれ悩むのは俺の性に合わない)

そこでエルウィンは隣に立つアリアドネに声をかけた。

「アリアドネ、実は聞きたいことがあるのだが……」

「あ、はい。何でしょうか?」

「その……。羨ましいか?」

「え?」

いきなり突拍子も無いことを聞かれ、アリアドネは理解できなかった。

「あの……一体何のことでしょうか?」

「いや、つまり……。ダンスを踊っている彼らが羨ましいかどうか聞いているのだ」

「いいえ。違います」

即答するアリアドネ。

「何!? 違うのか? だ、だったら何故、そんなに食い入るように見ている?」

「ええ、それは……」

アリアドネは視線をダンス会場に向けた。

「皆さん、よく音楽に合わせて難しいステップを踊れるものだと感心しておりました。とても私には出来そうもありませんから」

苦笑しながら返事をするアリアドネ。

「そ、そうか? それなら良かった……」

エルウィンが安どのため息をついたその時――

「先ほどは失礼致しました」

2人の前にマクシミリアン王太子が仮面をつけた状態で現れた。

「あ! 貴方は……王太子様!」

アリアドネは驚きの声を上げる。

「先ほどは幾ら知らなかったとはいえ、無礼な態度をお許し下さい」

内心面白くない気持ちを押さえつつ、エルウィンは挨拶をした。

「いや、あれはこちらの方が悪かったと思っているから。ところで……お2人とも、ここで何をされているのですか?」

王太子はエルウィンにではなく、アリアドネに質問した。アリアドネの手にはスイーツの乗った皿がある。

「あ、あの……私たちは……ここで……」

アリアドネはダンスを楽しむ人々の中で、スイーツを食べている自分が急に恥ずかしくなってきた。

「2人でここで料理を楽しんでいました」

それが何か? と言わんばかりにエルウィンが2人の会話に入る。

「そうですか。どうです? この城の料理は」

「ええ。とても美味しいですね」

エルウィンは頷く。

「それは良かったです。ところで、何故お2人はダンスを踊らないのですか?」

王子は2人が答えにくい質問をしてきた――