その日の昼の時間――

アリアドネがダイニングルームに姿を現すと、既にテーブルにはエルウィン達が着席していた。

「アリアドネ様、こちらへどうぞ」

いつものようにカインがアリアドネに手を振った。ここ最近、アリアドネはカインの隣の席で食事をするようになっていた。
そこで今日もカインの隣に行こうとすると、突然エルウィンが立ち上がった。

「アリアドネ、この席に座れ」

そして自分の隣の席を指さした。そこにはナレクが座っている。

「ええっ!?」

自分の座っている席を指さされたナレクは当然驚いてエルウィンを見た。勿論驚いたのはナレクだけではない。アリアドネも、その場にいた全員も驚いた。

「何だ? 何か文句でもあるのか?」

エルウィンはすごんだ目でナレクを見た。

「い、いえ……文句だなんて、滅相もございません」

ナレクは急いで立ち上がると、逃げるように空いている席に移動した。

「席が空いたぞ、早くこっちへ来い。」

笑顔でアリアドネに手を振るエルウィンに、その場にいた全員が注目したのは言うまでもない。

「は、はい……」

他ならぬエルウィンからの誘い、おまけに騎士全員が自分に注目している為にアリアドネは気恥ずかしくて仕方が無かった。

一刻も早くエルウィンの隣に座り、食事が開始されれば注目されることも無いだろう。そう考えたアリアドネは全員の視線を浴びながら、恐縮する思いでエルウィンの元へ向かった。

「あ、あの……お待たせ致しました……」

エルウィンの傍に来ると、アリアドネは声をかけた。

「うん、座れ。食事にしよう」
「はい……」

アリアドネが隣の席に着席すると、すぐにメイドが料理を運んできた。
そしてあっという間に料理が並べられ、にぎやかな食事会が始まった。


ハーブの効いた肉料理を切り分けながら、エルウィンがアリアドネに尋ねてきた。

「アリアドネ、今夜は何が行われるか分かっているな?」

「はい、勿論です。夜会ですよね?」

エルウィンの手の平を返したような態度に戸惑いながらアリアドネは返事をした。

「そうだ、もう着て行くドレスは決まったのか?」

「え? は、はい……一応は……」

エルウィンのよそよそしい態度からアリアドネは半ば、今夜の夜会は不参加になるのではないかと考えていた。

(まさかエルウィン様の口から夜会の話が出るなんて……)

「そうか、どんなドレスを着るつもりだ? 俺も出来るだけアリアドネの装いに合わせた方がいいからな」

「え!?」

声を上げたのは、先程からアリアドネの向かい側に座っていたグレンである。

「何だ? グレン。お前……ひょっとして俺とアリアドネの会話を盗み聞きしていたのか?」

ジロリと睨みつけるエルウィン。

「い、いえ! そんな盗み聞きするなんて真似、するわけないじゃないですかぁ! アハハハハ……」

必死で笑ってごまかすグレン。

「そうか……ならいいが。それでアリアドネ。お前はどんなドレスを選んだ?」

エルウィンはすぐにアリアドネに視線を向けた。

「は、はい。私は青いドレスを選びました」

青いドレスを選んだのには理由があった。それはエルウィンの瞳が青く、美しかったからだ。
アリアドネはエルウィンの青い瞳が好きだったのである。


「成程……青か。ひょっとしてアイゼンシュタットの騎士の軍服が青だからそれに合わせてくれたのだな? お前の心遣いに感謝するぞ」

「は、はい……」

頷くアリアドネ。
上機嫌のエルウィンには、アリアドネの気持ちが分かるはずも無かった――。