「こちらのお部屋が今夜の晩餐会の会場になります」

黄金色に輝く両開きの扉の前でベアトリスは足を止めた。
扉の前には2人のフットマンが控えている。

「王女様、辺境伯様。お待ちしておりました。皆様全員中でお待ちになっております」

1人のフットマンが2人に声をかけた。

「皆様だって……?」

その言葉にエルウィンは眉をひそめた。

(皆様とは、一体どんな奴らが揃っているんだ……?)

「どうかなさいましたか? エルウィン様」

ベアトリスが不思議そうにエルウィンを見上げる。

「いえ、何でもありません。どうかお気になさらずに」

(あんまり身体を動かすなっ! その度に香水の匂いが鼻につくじゃないかっ!)

内心の気持ちとは裏腹に愛想笑いをするエルウィン。

「そうですか? では中へ入りましょうか?」

ベアトリスの言葉に2人のフットマンは扉を大きく開け放した。
すると2人の目の前に真っ赤なカーペットを敷き詰めたホールが現れた。

部屋の中央には白いテーブルクロスを掛けたダイニングテーブルが置かれ、男女合わせて20名程がテーブルに向かって着席していた。

「おお、2人とも。待っておったぞ。さぁ、中へ入るが良い」

上座に着席した国王が2人に気付き、大きな声で呼びかけてきた。

「はい、お父様」

ベアトリスは返事をするとエルウィンに目配せする。

(全く……)

エルウィンは心の中でため息を付きをつくと、ベアトリスを伴って会場に足を踏み入れた。

途端にテーブル席についていた人々がざわめく。
彼らの誰もが、『戦場の暴君』と呼ばれるエルウィンを認識することが出来ずにいる。

「誰だ? 王女様と一緒におられる方は?」
「さぁ……、見たことがない顔だ……」
「でも、何て美しい方なのかしら……」
「王女様の婚約者かしら?」


ベアトリスは彼らのざわめきを心地よく捉えていたが、一方のエルウィンは増々苛立ちを募らせる。

(何だって!? 俺が王女の婚約者だと!? 冗談じゃないっ! もう、こうなったら席に座る前に自分の身元を明かしてやるっ! 恐らく俺の正体を知れば震え上がるだろうからな)

エルウィンは自分が世間でどれだけ恐れられているか良く理解していた。


「2人とも、空いてる席に座ると良い」

国王は言うが、空席は2つしか空いていなかった。
そしてその席の向かい側には夫婦と見られる貴族が座っている。

(空いてる席と言ったって、あそこしか空いていないじゃないか。しかも王女と一緒に座れということか?)

苛立ちを隠しながらエルウィンはベアトリスを伴って空いている席に向かった。
そして嫌々椅子を引いてベアトリスを着席させると国王に挨拶をした。

「国王陛下、本日は晩餐会にお招き頂きありがとうございます」

そして次に周囲をぐるりと見渡し自己紹介した。

「わたしの名前はエルウィン・アイゼンシュタット。辺境伯と呼ばれています。どうぞよろしくお願いいたします」

すると次の瞬間――

「何っ!? 辺境伯だとっ!?」

エルウィンの向かい側に座る男が突然立ち上がった――