「これは……何だ?」

エルウィンはテーブルの上に何かを来るんだ布を置かれて怪訝そうに尋ねた。

「はい。エルウィン様に差し上げたくて……編みました」

「え……?」

アリアドネが布を広げると、そこには濃紺の毛糸で編まれたマフラーが入っていた。

「マフラー……まさか俺に?」

エルウィンは信じられない気持ちで尋ねた。

「はい、そうです。この色はエルウィン様の青い瞳に良く合うと思ったからです」

アリアドネはエルウィンが呆然とマフラーを見つめている姿に不安を感じてきた。

(どうしよう……ひょっとして気に入らなかったのかしら……? そうよね。エルウィン様は辺境伯でお金も権力もある方だわ。こんな手編みのマフラーでは喜ばれないわね……)

「あ、あのお気に召さなかったのならこれは……!」

慌ててマフラーを包み直そうとした時、突然右腕をエルウィンに掴まれた。

「エルウィン様……?」

「どうした? アリアドネ。何故片付けようとする? 俺にくれるんじゃ無かったのか?」

エルウィンは真剣な眼差しでアリアドネを見つめている。

「え……? そ、それはそうですが……もしかして気に入らなかったのかと思って……」

「気に入らないだって? まさか! そんな筈ないだろう?……感動して言葉を失ってしまっただけだ」

「え!?」

その言葉にアリアドネは驚いた。

エルウィンはマフラーを手に取ると首に掛けた。

「……温かいな……。ありがとう、アリアドネ。大切にするよ」

そしてエルウィンは口元に笑みを浮かべた。

「い、いえ。喜んで頂けて……何よりです」

エルウィンの笑顔にアリアドネの胸の鼓動が高まった。

(やっぱり……エルウィン様は美しい方だわ……)

そして急に2人きりで食堂のテーブルでワインを飲んでいることが気恥ずかしくなってしまった。

そこでアリアドネは早くこの場を退散しようと思い、残りのワインを一気に飲み干した。

「おい、そんなに一気に飲んで大丈夫か?」

突然アリアドネがワインを一気に飲んでしまったことに驚いたエルウィンが声をかけた。

「は、はい。大丈夫です……そ、それでは私はこれで失礼致します……ね……」

強いワインを一気に飲んでしまったことで、アリアドネの身体に酔いが回る。

「アリアドネ、1人で部屋に戻れるのか?」

「は、はい……大丈夫です……」

酔いが回った身体でアリアドネは立ち上がった。

「エルウィン様……お休みなさいませ……」

「あ、ああ……お休み……」

心配になりながらもエルウィンはアリアドネに挨拶を返す。

そしてアリアドネはフラフラと自室を目指して歩き始め……途中で意識を失ってしまった。

エルウィンが焦った様子で自分の名を叫ぶ声を聞きながら――