「アリアドネ、もしかして慣れない馬車の旅で疲れていたのか? 少しは休めたか?」

エルウィンはアリアドネに気を使い、声をかけた。

「申し訳ございません。すっかり眠ってしまって。実は昨夜あまり眠れなかったものですから」

「何? そうだったのか? 何か心配事でも……ん?」

エルウィンは視線を感じて顔を上げた。
すると騎士全員がエルウィンを凝視している。

「お、お前ら……俺は見世物じゃないぞっ! 全員向こうを向いてろっ!」

エルウィンは顔を真っ赤にさせ、出入り口を指さした。

『は、はいっ!!』

全員が声を揃えてエルウィンの座る席とは反対側を向いた。

「全くとんでもない奴らだ。アリアドネ、こいつらは全員石ころだと思って気にするな。ここの料理はうまいからな。遠慮せず好きなだけ食べろ」

「は、はい……」

しかし、騎士たちは全員意識をエルウィンとアリアドネに向けているのは分かっていた。その為、2人は無言でなんとも気まずい食事を進めるのだった――



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 食事が終わるとエルウィンは騎士たちに好きに時間を過ごせと命じた。
そこである者は部屋に戻り、またカードゲームに興じる者達もいた。

そしてようやくエルウィンは邪魔な騎士たちを追い払うことが出来てホッとしたところで、隣に座るアリアドネに話しかけた。

「アリアドネも好きに過ごすといい。部屋に戻るのだろう?」

エルウィンがテーブルの上に乗せたワイン瓶に手を伸ばした時……。

「あ、あの……実はエルウィン様に御相談があるのですが……」

「何? 俺に」

「エルウィンはワイン瓶から手を引っ込めるとアリアドネを見た。

「は、はい……」

「どんな相談だ? 遠慮せずに言ってみろ?」

(ようやく俺に相談する気になったのか? それだけアリアドネは俺を信用している……ということだよな?)

エルウィンは真面目な顔つきでアリアドネを見つめるものの、内心ウキウキしていた。


「はい、実はお城に着いてからの相談なのですが……夜会が行われるということは、つまりダンスがある……ということですよね?」

「うむ……恐らくはそうなるだろうな?」

頷くエルウィン。

「そう……ですか」

途端に顔を曇らせるアリアドネにエルウィンは尋ねた。

「どうした? アリアドネ。何かあったのか?」

「はい……。城には参りますが……夜会を欠席することは出来ないでしょうか?」

「夜会を欠席……だと?」

エルウィンが眉をしかめた。

「はい……」

申し訳無さげに頷くアリアドネにエルウィンは自分でも驚くほどショックを受けていた。

(何故だ? 普通、女という者は華やかな宴が好きだ聞いてるぞ? それなのに夜会を欠席したいとは……そんなに俺と出席するのが嫌なのか?)

「な、何故出席したくないのだ?」

心の動揺を隠しながら尋ねる。

「はい。実は私……貴族としての嗜みも一切分かりませんし、ダンスも踊れないからです。私のような者と一緒に参加すればエルウィン様に恥をかかせてしまいます」

アリアドネは頭を下げた――