「ミカエル様、ウリエル様。今日の昼食はいかがですか?」

2人の部屋で給仕をしながらアリアドネが尋ねた。

「うん、今日もとっても美味しいよ」
「このオムレツ、最高だよ」

ウリエルとミカエルが嬉しそうに返事をした。

「そうですか、それは何よりです」

食後の紅茶の準備をしながらアリアドネは思った。

(良かったわ。御2人とも、大分元気になられて……)

ロイが死んで、数日間の間はミカエルとウリエルは1日中悲しみに暮れていた。
食欲もなく、泣いてばかりの日々を過ごしていた2人にアリアドネは献身的に尽くした。自分自身、ロイを失った悲しみを抱えながら……。

もう、2人は立ち直ることが出来たのだろう。
アリアドネがそう考えていた矢先……。

「そうだ、リア。聞いてくれる?」

不意に食事をしていたミカエルが声をかけてきた。

「はい、何でしょうか? ミカエル様」

「うん。僕達ね……剣術の訓練を受けさせてくださいってエルウィン様に頼むつもりなんだ」

「え? 僕達……と言うと、ひょっとしてウリエル様もですか?」

アリアドネは驚いた様子でウリエルを見た。

「うん、そうだよ」

「で、ですが……まだミカエル様は12歳、ウリエル様だって7歳ではありませんか?」

するとウリエルが首を振った。

「そんな事無いよ。だって、ロイは7歳でこの城の兵士の訓練を受け始めたんだよ。僕だって同じ年なんだから出来るよ」

「そうだよ、リア」

「ですが……私は御2人が危険な目に遭ってもらいたくは無いです。ましてや兵士になって戦場で戰う等……」

アリアドネは2人を本当に自分の弟のように愛しく思っていた。
だからこそ、尚更ミカエルとウリエルには血なまぐさい戦場とはかけ離れた場所で育って欲しいと願っていたのだ。
例え、行く行くは2人のどちらかがこの城の城主になったとしても……。

するとミカエルが言った。

「違うよリア。僕とウリエルが訓練を受けるのはね、ロイのように強くなりたいからだよ。強くなって、リアやこの城に人達や領民たちを守りたいからだよ」

「ミカエル様……」

その言葉を聞いた時、アリアドネは罪悪感を抱いた。
ミカエルもウリエルも自分がこの城を去ろうと考えていることを露とも知らないからであった。

(お2人は私がこの城をいずれ出ていくことを知ったらどう思うかしら? 黙って出ていけば2人の心を傷つけてしまうかもしれないし……。いっそ、今この場で話したほうが……いいのかもしれないわ……)

そこでアリアドネは決心した。

「あの、ミカエル様。ウリエル様、実は……」

—―コンコン

そこまで言いかけた時、部屋の扉がノックされた。

「え? 誰だろう?」
「誰かな?」

ミカエルとウリエルが首を傾げる。

「私が確認してまいりますね」

アリアドネは2人に声を掛けると、扉に向かった。


カチャ……

扉を開けると、そこに立っていたのはエルウィンだった。

「まぁ、エルウィン様」

「良かった、やはりここにいたか?」

目を見張るアリアドネに、エルウィンは慣れない笑みを口元に浮かべた――