エルウィンがミカエル達の部屋を去り、入れ替わるようにアリアドネが2人のお茶とお菓子を部屋に運んできた。

「ミカエル様、ウリエル様。お茶とお茶菓子をお持ちしました」

アリアドネは丁寧に挨拶すると、ワゴンを押して部屋の中央に置かれた丸テーブルの上にお茶のセットを乗せていく。

「ありがとう、リア。今日のお茶とお菓子は何かな?」

ミカエルがアリアドネに声をかけながらテーブル前に置かれた椅子に座った。
その向かい側にミカエルも座る。

「はい、本日の紅茶はストロベリーティーです。お菓子はアップルタルトですよ」

アリアドネはカップに紅茶を注ぎながら説明した。

「美味しそうだね~」

ロイが亡くなり、塞ぎがちだったウリエルが口元をほころばせながらアップルタルトを見つめている。

「ええ。とても美味しいですよ。何しろアイゼンシュタットのシェフが手掛けた特製タルトですから」

「え? リアはもう食べたの?」

ミカエルが尋ねた。

「あ、いえ。食べた……と言うよりは味見をさせて頂きました。いつもお2人のお茶菓子をお持ちする際は味見をさせて頂いておりますので」

アリアドネは嬉しそうに説明した。

そこでミカエルはエルウィンからの頼みを思い出した。

(そうだ、リアに好きな物は何か尋ねなくちゃ)

「ねぇ、リアはひょっとして甘いお菓子は好き?」

ミカエルの質問にアリアドネは笑みを浮かべながら答えた。

「ええ、勿論大好きですよ? 甘いお菓子は人を幸せな気持ちにさせるとは思いませんか?」

アリアドネはミカエルとウリエルが突然のロイの死で落ち込んでいることを知っている。なので、あえて明るい声で話をした。

「そうなんだ。それじゃ早速エルウィン様に教えてあげなくちゃ」

ウリエルの言葉にアリアドネは首を傾げた。

「え? 何故……エルウィン様にですか?」

「うん、あのね。さっきエルウィン様が僕たちにリアの好きな物を教えて欲しいってやってきたんだよ」

ミカエルが説明した。

「エルウィン様が……ですか? 何故お2人にそのようなことを尋ねられたのでしょう?」

アリアドネにはますます訳が分からなかった。

「それはね、エルウィン様がリアのことを好きだからだよ」

無邪気に話すウリエルの言葉にアリアドネが驚いたのは言うまでも無かった。

「え!? な、何ですか? そのお話は!」

アリアドネがあまりにも驚くので、ミカエルは自分の考えを述べた。

「多分、エルウィン様はリアのことが好きだからリアの好きなプレゼントをあげて、喜ばせたかったんじゃないかな?」

「ミ、ミカエル様……」

アリアドネは狼狽しながらも思った。

(きっと、ミカエル様もウリエル様もまだ幼いからエルウィン様のことを勘違いされているに違いないわ。それにエルウィン様にはもうこの城を出る決意を語っているのだから)

「ミカエル様、ウリエル様。私が好きなのはお2人の笑顔ですよ? お2人の笑顔を見ているだけで幸せな気持ちになれますから」

そしてアリアドネは2人に笑顔を向けた――