最初に気づいたのは絢香の方だった。

特急電車が来るまで2人はベンチに座ることにした。
その前をキョロキョロと見回す1人の男の子がいた。


「何か困っているのかな?」
絢香がそう言うので千鶴もそちらを見た。
男の子は小学校高学年くらいに見える。
髪の毛はふわふわの栗色のくせ毛で
可愛らしい顔によく似合っている。
リュックを背負い水筒も斜めに掛けている。
男の子の手には切符を持っているので、
これから電車を乗ろうとしていることがわかった。
これくらいの歳の子供が1人で
電車に乗ることは変ではないが、
キョロキョロと周りを見る様子は
何か不安そうに見えた。

「ちょっと行って来る」
そう千鶴に言うと、絢香はエナメルの靴を
パタパタと鳴らせて男の子の側に走った。

絢香に声をかけられて男の子は驚いていたが
切符を見せながら答えている。
反対側のホームを指差ししながら
絢香が説明している。
男の子も説明を聞きながら
絢香の指さす方を見て頷いている。
絢香が何か話すと男の子の顔が
ホッとした顔で頷いた。

絢香がパタパタと靴を鳴らして
今度は千鶴の元に来た。
「やっぱり、迷っていたみたい。
違うホームに来てるから、案内してくる。」

「そうだったの。絢香ちゃん、優しいわぁ。
おばあちゃんの電車もうすぐ来るから、
あの子を案内したら帰りなさいね。」
「わかった。またね。おばあちゃん」
「また来るわね」

絢香は千鶴に手を振るとまたパタパタと
男の子の方に歩いて行った。
遠くに立った男の子はこちらを向き
千鶴にペコっと頭を下げた。
千鶴は男の子に優しく手を振り返した。

ーー礼儀正しい男の子ね
千鶴は2人の潮姿を見送って
ホームに来た特急電車に乗り込んだ。