「ただいま」

佳乃子に笑う浩介。
出会った大学生の頃から
30年と見た笑顔なのに何か違う。
 
「疲れてる?」
「ん?んー。顔?…あー。
ここずっと残業があったから…かな」

と、頬をポリポリと掻きながら
浩介はサイドミラーを覗き込んでいる。

「そっ。…今日は浩介の好きな山菜パスタ作るね。」

浩介はサイドミラーを覗き込んだまま返事がない。
佳乃子は違和感を抱かずにはいられなかった。

頬を掻く仕草はウソのサインだ。

だけど、長い年月を共にした夫婦は
小さい違和感に目くじらを立てなくなっていた。
佳乃子は返事もない浩介に
一方的にすずの話をして
車で家へと向かった。