「こんばんは。アズのお母さん?」
日本語で話しかけられるとは思わず驚いた。

「そうです。梓がいつもお世話になってます。」
「猫ちゃんかわいいですね。」
佳乃子はすずを抱き抱えて画面の前で挨拶をした。

「すずと言います。」
「かわいい白い猫ちゃん。あーかわいい。」
英会話教師は猫好きですずを見て目尻を下げてニコニコ話している。
すずは佳乃子kの腕の中でリラックスして喉をゴロゴロと鳴らす。
すずが褒められて満更でもない佳乃子だった。

「日本語がお上手ですね」
「私は、スコット・タイラーと言います。
アズの高校の英語教師でした。
3年前にSNSでアズから連絡が来て、
こうして時々英会話をして勉強しています。」
「そうなんですか。それはありがとうございます。」

佳乃子は梓の行動力に驚いていた。
夢に向かってしっかり努力をしているんだと
我が子ながら感心していた。

いつの間にかパソコン画面の前に座って、タイラーと話していた。
すずは佳乃子の膝の上でコロコロと寝転がっている。

タイラーは50代後半の白人男性。
グレヘアーの前髪をキリッと立て
白いポロシャツが似合っている。
笑顔は優しくまさしくジェントルマンと言った風貌。
彼の背後には外国のお家らしく天井まである本棚
がずらっと並んでいた。
その本棚から教養の高さが伝わってくる。

「あれ?お母さん?え!タイラー!話してたの?」
梓がパタパタと階段を登って帰ってきた。
手にはダンボールを抱えている。

「あぁ。高校の時の先生なんだってね。」
佳乃子は慌てて椅子から離れると
すずを抱っこしながらタイラーに一瞥すると
部屋をそそくさと出て行った。

廊下に出ると暫くして梓とタイラーの英会話が聞こえてきた。
ダンボールの中身について話しているようだった。


静かな廊下で佳乃子は心が跳ねるような感覚を感じていた。
久しぶりに家族や都さん以外と話し緊張もしたが
今までと同じ生活の一片を営めることができ
安堵感に似た感情を持っていた。

ーーちょっとずつ進めている。
そう思ってぎゅうっとすずを抱きしめて、
都のいるリビングに戻った。