佳乃子は鈴蘭水仙を小さな花瓶に刺すと
ダイニングテーブルの真ん中に置いた。
椅子にかけたエプロンを首にかけると
キッチンに向かった。

ダイニングテーブルには
椅子が4つ並んでいるが、
この家には佳乃子しかいない。

長男の楓(26)は地元大学を卒業後、
地元で就職。
隣の市で念願の一人暮らしを楽しんでいる。
近々彼女を連れてくるとかこないとか。

長女の梓(24)は隣県の大学卒業後
そのまま大学附属の病院で看護師として
就職している。

2人とも佳乃子が一人暮らししていることを気にかけ
ちょくちょく実家に顔を出してくれる。

佳乃子もアラフィフになって
突然降って湧いた一人暮らしに戸惑ったが、
今年の夏で終焉を迎える。
浩介が三年の単身赴任を終え
地元の支社に戻ってくる予定だ。

佳乃子は快適な一人暮らしに未練があるものの
浩介の帰りを心待ちにしていた。


佳乃子はフライパンに乗ったオムレツを
ゆっくりと皿に移した。
白猫が佳乃子の足に全身を擦り寄せる。
優しく白猫の額を撫でた。
白猫は気持ち良さそうな顔を向けて応える。

「おはよう。すずちゃん。ご飯食べよっか」