しるべ

佳乃子は勢いよく話している。
浩介以外にも山城や楓も
佳乃子のその勢いに圧倒されていた。

浩介も此処は譲れないと
口元をしかめて佳乃子に向きあっている。
佳乃子はその浩介の癖に
目が奪われていた。

夫婦喧嘩した時に
見せる浩介の仕草だった。
その口元を見て
最後には佳乃子が我慢できなくて
笑ってしまう。
いつもそれで夫婦喧嘩に終止符が打たれる。


ーー懐かしい。そんな事もあったな。

佳乃子がそう思っていると
浩介は負けじと佳乃子に言い返していた。

「だって、スコットさんに悪いだろう？」

「え？
何が？」
何故？と訝しげな顔の佳乃子に
それ以上は口を紡ぐ浩介

訳がわからぬが
きっとスコットはいいと
言うだろうと思い
素直に佳乃子は
スコットに質問した。
「…スコットいいよね？」

スコットは佳乃子に
質問に慌てる事なく
呑んでいたホットミルクのカップを
机に置いて話し始めた。

「もちろん〜。
私は大丈夫ですよ。」

スコットは話の合点がいったようで
クスクス笑いながら笑顔で答えた。
佳乃子は浩介の要領の得ない言葉達より
懐かしんでいた自分に驚いて
ただ平静を装っていた。

「友達の私は
佳乃子がする事を
応援するだけだからね。」
と最後の言葉を言い切る前に
浩介を見てニヤリと笑った。

スコットに気持ちを
見透かされたような気がして
浩介は小さく動揺していた。

それに佳乃子だけが
気づかなかっただったことは
浩介にとって救いだった。