「俺もよく覚えてるよ、その時のことは」
クロイは引き出しからある物を取り出し、私の手のひらにそっと置いた。
それは美しい装飾の施された、アメジストが嵌め込まれたブローチであった。
光の反射により煌めきが変わり、私は思わずブローチの外観に夢中になってしまう。
「かわいい、これクロイさんのですか?」
「うん、そうなんだけど実は俺の手作り。
もっと上手い人が作ったブローチもあるよ」
手のひらにもうひとつ、今度はサファイアが嵌め込まれたブローチが置かれる。
美しい海色のブローチは、まるでアリアと訪れた海を彷彿とさせ、懐かしい気持ちにさせられる。
けれどもその懐かしさは、別の想い出もあるようで、私はぎゅうっと胸が締め付けられる。
(……このブローチ、私、どこかで)
脳裏に浮かぶのは途切れ途切れになる記憶の欠片。
その欠片を拾い集めようとするたびに、頭痛が襲い、私は思わずその想い出に蓋をしてしまった。
「分離手術の裏に心臓移植が行われたのは知ってる?」
しかしその蓋はクロイの言葉を聞いた瞬間にこじ開けられてしまう。
私は呼吸が早くなるのを抑えながら、クロイの言葉を待った。
