「夕はキスしたことあるの?」

 昼休み。

 ざわめく教室の中で
 投げかけられたそんな問いかけ。


 そう言ったのは親友の佐紀だった。


 そのとき蘇ったのは
 よく分からないうちに押し付けられた唇のこと。

 そして、キスをされたこととは
 比べ物にならないショックな言葉だった。

 記憶の隅においやった
 そんな記憶だった。

 「あるわけないでしょう? 
 まだ彼氏だってできたことないのに」 

 それは本当。

「そうなの? 
 宮田くんとつきあえばいいじゃない」

「あいつだけは絶対に嫌」

「そうなの?」

 不思議そうに
 佐紀は首をかしげる。


 彼女はあたしのきもちを
 知っているからだと思う。

「そうだよ」

 あたしは蘇った記憶を振り払いながら、
 ため息を吐いた。