「溺れた生徒を助けて、亡くなったんですって」
「なんで人手を待ってから助けなかったんだ?」
「いるよなぁ、そう言う軽率な行動するひと。残される家族のこと考えてないよな」
「子供が助かったから良かったものの、助からなかったらどうするつもりだったのかしら」
「まあ、奥様も随分前に亡くなっているから、思い残すものもなかったんじゃない?」
「確か奥様って、白波瀬さんのご当主の……」
「シッ。白波瀬さんがいらしてるのよ、謹んで」
倉橋のじいさんの葬儀は、厳かに取り計らわれた。
憶測で好き勝手に噂立てる声に、俺は血が滲むほど唇を噛み締めて、顔を伏せた。
……何も、何も知らないくせに。
あの人のこと、何も知らないくせに!
「至」
低く落ち着いた声が、横から聞こえる。
黒い羽織袴に身を包んだじいちゃんが、前を見据えたまま、言った。
「向こうのお嬢さんは気丈に耐えているのに、お前がそんなのでどうする。前を向きなさい」
「……」
ノロノロと表をあげて、彼女の方を見た。
両親に肩を抱かれて佇むその姿と、あの日の面影が重なって見える。あの日、俺の手を振り払った今にも泣き出しそうな顔と。



