隣の席の坂本くんが今日も私を笑わせてくる。


 季節は何度も巡り、俺は中学3年生になった。

 それなりに勉強と部活を頑張って、青春を謳歌したと、思う。

 中学に上がると、周りの女子からのアピールが激しくなった。それをいちいち受け流すのが面倒で、牽制のつもりで何度か告白をOKして付き合ったりもした。

 でも、時間が経つと口を揃えてみんな同じことを言う。”私ばっかり好きで、辛いから別れよう”って。

 初めは、私のこと好きじゃなくてもいいからって、言ってたのは、全部嘘だったらしい。

 ……でも、俺も人のこと言えない。

 一度好きになってしまえば、それは病のように、習慣のように、自然と目で追ってしまう。

 彼女との接点は、とうの昔に切れてしまったのに、俺は性懲りも無く、思い出してしまうのだ。

 廊下ですれ違う時。
 帰り道で見かけた時。

 彼女の影が視界の隅を掠めるたび、俺は愚かにも淡い期待を抱いてしまう。

 少しでいい。一秒でいい。
 こっち、見て。
 昔みたいに……、笑って。

 そんな都合のいいこと起こるわけないって、頭では分かっているのに。

 俺も大概、未練がましい男だった。

 ☺︎
 「先生さようなら〜!」
 「またね〜」
 「おお、気いつけて帰りや〜」

 中学最後の夏休みだった。

 午前中の部活が終わって、練習道具の詰まったエナメルバックの重さに辟易としながら、家路を目指していた。

 その日は、前日に降った大雨の影響で、茹だるような蒸し暑さだった。流れる汗はじとりとしていてさらに不快な気持ちになる。

 家までの道すがら、必ず、通りがかる場所がある。

 書道教室から小学生がゾロゾロと出てくる中に、それを見送る甚平姿の老人を見かけて、俺は思わず立ち止まる。すぐに方向を変えたが──遅かった。

 「ん? ちょお待ち。お前、源次の孫やろ?」
 「……はい」
 「よお見ん間に大きなったな〜。アッハッハッ、相変わらず生意気な面しとるわ」

 遠慮なく俺の背中をバシバシ叩いて、豪快に笑う老人。

 倉橋の祖父、倉橋鷹山だった。