文句の言葉が出る前に、ちょうど分かれ道まで来てしまった。ここで帰り道が分かれる。
俺は背負ったランドセルの肩紐を握り、駆け出した。後ろを振り返って、彼女を指を差す。
「言っとくけど、次は俺が勝つ! 首洗って待っとけ!」
「……うん。楽しみにしてる」
彼女は、紅茶に入れた砂糖がほろほろ溶けるみたいに柔く笑う。頭の中まで沸騰しそうなくらい熱くなって、俺はぐっと腹に力を込めた。
「〜〜〜! じゃあ、次の水曜日な!」
「うん。またね、至くん」
ひらりと手を振る彼女の後ろから、夕暮れの日がさしてその輪郭を赤く染め上げている。
日の光が目に染みて、まともに彼女の顔を見れない。
彼女といると、いつもこうだ。
次の、水曜日。
一週間後まで、勝負はお預け。
俺はそのまま踵を返して、家路を急ぐ。
駆ける足は次第に早くなり、熱った頬を撫でる風が、妙に心地が良い。
今すぐ声をあげてしまいたい、このムズムズした衝動がなんなのか分からない。けれど、不思議と嫌ではなかった。
そしてそれは、家についても消えることはなかった。
……結果から言っておくと。
次の水曜日は来なかった。
俺と彼女の勝負は54勝55敗で止まってしまったのだ。



