人生で二度、彼女を泣かせてしまったことがある。
一度目は、小学2年の秋。
二度目は、中学3年の夏。
俺のせいで流した涙の分だけ、彼女と俺との間に出来た溝は深さを増していく。もうすでに修復不可能なレベルの亀裂が走って、俺と彼女を隔てている。
そうだ。
俺は、彼女に笑いかけてもらう資格なんてない。
勘違いするな、思い上がるな、望むな。
罪悪感だけが、唯一彼女に抱いていい感情だと自分に言い聞かせる。
『……ふふ。いたるくん、へんなかお』
だから、頼むから。
昔みたいに、俺に笑いかけないでくれ。
これ以上、期待したくないんだってば。
☺︎
「ほら、至。挨拶しなさい」
「……どうも」
「源次の孫か! ナッハッハ、生意気な面が昔のお前にそっくりやな! ほら、侑子。隠れとらんで侑子も挨拶せえ」
「……」
豪快な笑い声を上げるご老人の背に隠れて、こちらを覗く小さな影は、警戒心バリバリの子猫みたいだ。
ご老人に背中をポンポン叩かれて、彼女は無愛想にぺこりと頭を下げた。
「……倉橋侑子です」
それが、彼女との初めての出会いだった。
当時俺が小学生に上がる前のことだ。
旧友である俺のじいちゃんと倉橋のじいちゃんは、同じ将棋クラブに足繁く通っていた。
長い夏休みで退屈していた俺をその将棋クラブをやっている近所の公民館に連れて行ってくれたことがあった。
まあ当然だけれども、将棋クラブの会員はほとんどがシニアばかりで、俺の遊び相手は必然的に、同い年の女の子の倉橋になった。



