虫の音が僅かに聞こえるほどの静寂の中、不意に後ろから布の擦れる音がした。
ひとつ間を置いて、こつん、俺の背中に何かが当たる。静かに後ろを振り返ると、すぐ近くに彼女の丸まった背中が見えた。
たぶん、寝返りを打って、俺の背中まで転がってきたのだろう。
Tシャツ越しに、僅かに触れた彼女の額から自分とは違う体温が伝わってくる。
「……」
深呼吸。ざわめく心を落ち着かせる。
彼女の行動ひとつで乱された理性をなんとか取り戻しことに心血を注ぐ。
置いてけぼりにされてしまったパーカーに手を伸ばす。
覆い被さるようにして、彼女の身体を囲う黒い影が差した時──、閉じられていた瞼がぴくりと動いた。
「……、ん……」
思わず硬直する。
まだ焦点の合わないぼんやりとした瞳が眠たそうに緩く瞬きをした。
この状況、普通にまずい。
もし意識がはっきりしたら彼女になんと釈明すればいいのか、頭の中で必死に言葉を探す。
すると、俺の頬を人差し指がちょんと、柔くつついた。
ふにゃり、と子どものように無防備に笑う彼女が、言った。
「……ふふ。いたるくん、へんなかお」
「──」
「…………ぐう」
ほんの一瞬、だった。
再び夢の世界へ旅立っていった彼女から、すぐさま距離を取る。
口で手を押さえて、暴れ回る心臓を鎮める。
指先まで熱くなった体温まではどうにも、制御ができない。
……あっ、ぶねー。
マジで正気に戻れ、俺。
不毛なことに首突っ込んで、昔の二の舞になる前に。



