「……お、はよう。倉橋さん」
「おはようございます」
2日ぶりの倉橋さんはいつも通りだった。
むしろ不自然なのは、俺の方。
笑顔が引き攣ってしょうがない。
倉橋さんはさっさと自分の席に着いて準備を始めてしまう。彼女の横顔からは、なんの感情も読み取れない。
今、何話しても墓穴掘りそうで、倉橋さんと目が合わせられない。いつもの倉橋さんとの会話を諦めて、視線を戻そうとしたそのとき、違和感に気づく。
「……イースト菌マン?」
俺の一言に、倉橋さんがぴくりと肩を跳ねた。
隠すように添えた手のひらの隙間から、見覚えのあるパッケージを被ったヒーローのキーホルダーがちらちら覗いている。
「これは……」
「倉橋さんもこねこねこパンの良さを分かってくれるようになったん? 嬉し〜」
「……知り合いにもらったんです」
「……へえ。そうなんや……」
知り合いって誰?
喉まで出かけた言葉をグッと飲み込む。
距離感ミスって自爆すんのはもうゴリゴリだ。
頭の片隅にちらつく白波瀬の三文字をかき消すように話題を振る。
「俺もこの前引いたで〜。しかも一発でこねこねこ出たんよ。すごない?」
「…………そうですか」
「? どしたん?」
「いえ、別に」
倉橋さんは一段低い声でそう言って、顔を背けてしまった。背中からこれ以上話しかけんなオーラを漂わせている。
とりつく島を失った俺は、項垂れて頬杖をついた。
「……(くそ、失敗した)」
「……(はぁ、失敗しました)」
ため息をつくタイミングが全く同じだったことは、知る由もなく。



