夏風に乗せて外部活の掛け声が、開けた窓の隙間から時折聞こえてくる。
オレンジ色と赤色の境目みたいな夕日が差し込んで出来た長い影の先で、倉橋さんが立っていた。
早鐘を打つ心臓の音が鼓膜の奥まで響いて、落ち着かない。足が木の棒にでも生え変わってしまったように、その場から一歩も動けない。
倉橋さんは、そんな俺とは対照的に涼しい顔で言った。
「用事ってなんですか?」
握りしめた拳をさらに強く握る。
大きく深呼吸をして、俺は口を開いた。
「あんな、俺……倉橋さんに伝えたいことがあって」
「はい」
「俺──、」
心臓が口から飛び出そうだ。
こんなに緊張してるの、初めてかもしれない。まじで、受験の時より緊張しとるかもしれへん。
俺も男や!!!!!
ここまで来たら腹くくるしかない!!!
「俺──倉橋さんのことが好き、です」
い、言った……! 言ってしまった……!
もう後には引けない。
俺はただ、彼女の返事を待つ。
倉橋さんは何度か瞬きを繰り返したあと、頬を赤らめて俺を見上げた。
そうして、恥ずかしそうに微笑む。
「……ありがとう」
瞼の裏にまで焼きついて一生離れないんじゃないかと、思うくらいの破壊力だった。
ギュンッと、心臓を鷲掴みにされたような感覚に目の前が眩む。
しかし、胸をかすめた甘い感情はいとも簡単に壊される。
「でも、ごめんなさい」
倉橋さんが頭を深々と下げた。
彼女のつむじを呆然と眺めることしかできない。
多分、小説とかである、目の前が真っ暗になる、ってこういうことを言うんだと他人事のように思った。
そして、彼女は真剣な眼差しで言った。
「私、白波瀬くんと付き合ってるんです」
朝の爽やかな日差しと、仲睦まじいすずめの囀り。
こんな気持ちの良い朝とは裏腹に鉛のような身体を起こして、俺はしばらく放心する。
すると、頭の片隅で、夢の中で彼女が口にした台詞が何重にもこだまする。
「……最悪や……」
思わず口から声が漏れた。
え? どういうこと?
これ、もしかして正夢……? 俺振られるん? 顔も知らん男を理由に?
最悪な展開が頭の中をぐるぐると回り始めて、吐きそうになっていると、すぐそばでスマホの着信音が鳴った。
スマホのロック画面に、糸井からのメッセージが表示されている。
『おはよ。今日は補講あるから、学校来るの忘れないように』



