「すいません。お待たせしました」
「あら、侑子ちゃん。奥様は?」
「……今手が離せないみたいで」
「そうなの。準備は順調?」
「はい。一応」
装束を受け取った井上さんは、地元の婦人会の会長さんです。
井上さんは愛想のいい笑みを浮かべて、装束についた糸屑を払いました。
「一応?」
「……」
「それは困るわ。ちゃんとしていただかないと」
「……すいません」
真綿で首を絞めるような息苦しさを感じて、顔を伏せます。
いくら鈍い私でも、流石に分かります。
これが善意の叱咤激励でないことくらいは。
「じゃあ、奥様によろしくお伝えしてくださる?」
「……はい」
井上さんは私を一瞥すると、去り際に小さな声で吐き捨てました。
「……余所者が」
こちらへ歩いてくる足音がして、私は顔を上げました。
ビニール袋をぶら下げて気怠そうにする白波瀬くんが母親からの小言に適当に頷きながらやってきます。
「お待たせ、侑子ちゃん。あら? 誰かいらっしゃったの?」
「さっき、井上さんが装束を取りに来てくれました」
「あら、そう?」
「……はあ、もういいでしょ。俺帰るから」
土間に散らばるたくさんの靴の中から、ハイカットのスニーカーへ履き替えた白波瀬くんが立ち上がった時です。
ちょうど、通りかかった源次さんが声を掛けてきました。
「至、帰るのか?」
「帰る」
「なら、送ってあげなさい。お預かりしている大切なお嬢さんだ」
「……」
「……」
私と白波瀬くんは一瞬、顔を見合わせます。
ここに鏡はありませんでしたが、今、私がしていた表情と彼の表情は一致していたことでしょう。
面倒くさ、と言いたげな顔が。



