白波瀬至は、所謂腐れ縁と言うものです。
幼少期、祖父がよく通っていた将棋クラブに連れて行かれた時、同じように源次さんに連れてこられていた彼が声を掛けてくれたのが、縁の始まりです。
白波瀬くんは、側から見れば源次さん譲りの端正な顔立ちをした長身で、家柄の良い男なので、それはもう女子からウケはすこぶる良く、小学校、中学校は私との関係を変に勘繰る女子たちに何度呼び出しを食らったことでしょう。
その頃には、彼の連絡先すら知らないほぼ他人だったのにも関わらず、です。
良い迷惑です。
だから、正直驚いたのです。
月夜見祭で神楽の巫女役に決まったあと、源次さんから「至も神楽に参加する」と、聞いた時は。
☺︎
「侑子ちゃん、よかったらご飯食べていかない?」
神楽の練習が終わり、着替えを終えた私が帰り支度をしていると、声を掛けられました。
白波瀬くんのお母さんです。
「神原さんたちも食べていくみたいだから」
神原さんたちとは、神楽囃子を担当する方々です。
白波瀬くん以外は全員成人済みで、ここ最近、白波瀬家で練習する際は高確率で飲み会になります。酔っ払いに絡まれるとかなり面倒です。
「えと……」
善意の笑みで引き止められると、流石に断り辛いです。どう断ろうか惑っていると、ふと横に影が指しました。
「俺は眠いしダルいから帰る。倉橋も帰るって」
「……」
顔を上げると、隣で白波瀬くんが大きくあくびをします。
「帰るの? なら、おかず持って帰りな。あ、侑子ちゃんにも渡すね。ほら、至、ちょっと来なさい」
「はいはい」
手招きされるまま、白波瀬くんが台所に消えていきます。取り残された私は、すでに酒の入り始めた宴会ムードの広間の隅っこで棒立ちするしかありません。
しばらく待っていると、障子越しにくぐもった声が聞こえてきました。
「ごめんください、井上です〜。袴取りに来ました」
あたりを見回しますが、酒の回った大人たちの耳には入っていないようです。
私はため息をついて、近くに置いてあった装束を手に土間へ向かいます。



