月夜見祭。
毎年8月上旬、蓮水神社に行われる夏祭りのことを言います。
神楽殿の中で行われる巫女神楽は、月夜見祭の中でも重要な行事の一つにあたります。
本来であれば神社に仕える巫女の仕事ではありますが、蓮水神社ではすでに巫女神楽を踊れる若人は居らず、地元の女性が順繰りで伝統を受け継いでいました。
去年までは私の近所に住む女子大生のお姉さんがやっていましたが、大学4年になった彼女は就職活動に専念することを理由に辞退。
後任を探していた中で、お鉢が回ってきたのが、私と言うわけです。
他にも候補がいる中で私に決まった理由は、単純です。
白波瀬家の現当主、白波瀬源次は私の祖父である倉橋鷹山と旧知の中であり、祖父が生前よく口にしていた「侑子に神楽を踊ってほしい」と言う遺言を叶えるため。
蓮水神社の辺り一体の土地を古くは室町時代から治める白波瀬家の影響力は未だ健在で、自治会にあった反対意見を鶴の一声でねじ伏せてしまったのです。
本来なら、人前に出て、まして舞を踊るなんて絶対にやりたく無いですが──祖父の遺言を無碍にするほど無情な人間ではありません。
ただ、一つ誤算があるとするなら。



