「私が思うに、不用意に笑顔を振り撒く行為は要らぬ厄介ごとを持ち込むと心の底から理解しました。今後一切、人前では笑わないようにします」
「そ、れは……無理ぃ!!!!!!!!」
倉橋さんはいつも唐突だ。
それに、極端だ。0か100かでしか割り切れない。
びっくりしすぎて大声が出てしまった。
植物園の温室にりぃ、りぃ、と俺の声が反響する。明日の天気の会話をするくらいの気楽さで爆弾発言をした当の本人は全く自覚がないのか、目をぱちぱちさせる。
あかん、分かってない、この子。
全ッ然、分かってない!
「無理、と言われましても」
「そっ、れはそうやけど……!」
「面倒事に巻き込まれたくないですし」
「〜〜〜! そうなんやけどぉ!」
「さっきみたいに絡まれるのも嫌ですし」
「せやったら、……!」
そこまで言葉が出かけて、俺は止まる。
喉まで出かけた言葉が、どうしようもなく身勝手で、独りよがりで、ただの隣の席の奴が言う権利なんて全くないから。
顔を伏せる。
拳が真っ白になるくらい、握りしめて唇を固く結ぶ。
……もう、間違えたくない。
彼女が引く一線の向こう側に足を踏み入れたら、今度こそ口も聞いてもらえなくなるかもしれない。
今こうして近くに入れるだけで、いいから。
これ以上を望んじゃ、いけない。
反芻、何度も、自分に言い聞かせる。
けれど、そんな安い決意は、彼女の言葉でいとも簡単に崩れ落ちる。
「笑うんは、俺の前だけにして」
「──」
「……って、言ってくれないんですか?」
反射的に顔を上げると、倉橋さんと、目が合う。彼女は柔く目を細めた。
「その言葉を待ってるのに」
ああ、もう。
……ずるい。ずるいよ、倉橋さん。
「……なんで、そんなこと言うん……」



