彼──坂本くんがへらりと笑みを浮かべて手を合わせました。
「お話し中すんませ~ん。先生が倉橋さん呼んどるんで、連れてってもええですか?」
「は?」
「うんうん。ごめんな、ありがと~」
「は? いや、」
「行こ、倉橋さん」
「……は、はい」
「──っ! おい、まだ話は、」
すれ違いざまに私の腕を掴もうと伸ばされた手を──
「気安く触んなや、ボケが」
坂本くんが掴み、それを阻みました。
その時、初めて、坂本くんの声が怖いと感じました。
まるで、知らない男のひとのようで。
平坦で抑揚がないのに肌がピリピリするような凄みを含んだ声音に、勝手に身体が強ばります。
坂本くんが掴んだ手の力が相当に強いのか、男は顔を歪め、苛立ちの色を滲ませた瞳で坂本くんを睨みつけます。
「っ、離せや、このッ──」
「さっきから、お前らうっといねん」
「なッ、」
「サカリついたサルでも、もうちょいお利口さんやで? キーキー喚くだけのサルの分際でイキんのやめえや。それとも、黙り方も知らんサルには”シツケ”が必要か?」
「……」
「分かったら、さっさと去ね」
坂本くんが掴んだ手を振り払う。
男は握られたあたりを押さえて、数歩ほど後退り、脱兎の如く走り去って行く。
残りの2人も逃げ出した背中と私たちを何度か見回した後、クソッ、覚えとけよ!と、いかにもな捨て台詞を吐いて後を追って行った。



