隣の席の坂本くんが今日も私を笑わせてくる。


 「あ、もしかして……3組の倉橋さん?」
 「マジ? ほんと倉橋さんじゃん! かわよ」
 「あれ、転校生は一緒じゃないの?」
 「……」
 「えー無視はひどくね〜?」
 「お前みたいなのは軽そうな奴は嫌いだって、倉橋さん」
 「はは、ウケる」
 「……」

 最悪です。
 最も関わりたくない人種に絡まれてしまいました。
 こういう時はさっさと退散するのが一番です。

 私はすぐさま踵を返して、一歩踏み出します、が。

 「待ってよ、倉橋さん」

 退路を塞ぐように1人の男子が立ち塞がります。

 「どうせだったら俺らと回ろーよ」
 「嫌です」
 「あはっ、普通そんな笑顔で断る?」   
 「他を当たってください」
 「つれないなぁ。俺、結構本気で倉橋さんと仲良くしたいんだけど」
 「結構です」
 「もしかして怒ってる? かわい~」
 「……(殴り飛ばそうかな、コイツ)」

 常時笑顔を浮かべるせいで、言葉の威力が半減です。
 何を言ってもへらへら笑い返されます。

 「ダッサ。嫌われてやんの~」
 「倉橋さ~ん、こいつ結構マジだよ。この前倉橋さんに話しかけようとして、転校生くんに牽制されまくってたし」
 「おい、それ言うな」
 「……(牽制?)」

 私が言葉の意味を聞き返す前に、目の前に立ちふさがっている男子が、不躾に顔を近づけてきました。思わず身を逸らします。

 「あんな間抜け面じゃなくてさ、俺のが──」

 「誰の顔が間抜け面やって?」
 「うわァ!?」

 情けない悲鳴を上げて、男が飛び上がりました。

 「おまっ、いつからそこに!?」

 驚くのも無理はありません。
 いつの間にか音もなく、私と男子の背後に立つ人影があったのです。