隣の席の坂本くんが今日も私を笑わせてくる。


 ペットのアツムくん、というのはかなり語弊がありますが、ここ最近の坂本くんを一言で表すなら、"犬"でした。

 学校にいるときは、四六時中私の後ろをついて回り、私に近づく人間がいたらキャンキャン吠える。
 まるで番犬です。

 しかも、気まぐれに後ろを振り返ると、ご主人様に構ってもらえることを期待したワンちゃんのように目をキラキラさせるのです。

 もし彼にしっぽが生えていたら、忙しなく左右に振られていたことでしょう。

 それが1週間続きました。
 …流石に私も我慢できる限度があります。

 とうとう堪忍袋の緒が切れてしまったのが、一昨日の出来事。

 捨て台詞を吐いたその瞬間から、坂本くんは路頭を迷う捨て子犬のようにすっかり元気を失ってしまったのです。

 坂本くんが雛鳥のようについて回ってこなくなったことで、私の平穏な高校生活が戻ってきたと安堵したのも束の間。

 ……クラスメイトから集まる視線の痛いこと、痛いこと。

 非があるのは、彼のはずなのです。

 だというのに、まるで私が飼い主の責任を放棄して子犬を捨てた悪者、とでもいいたげに非難の目を向けてくるのです。
 言いがかりにも程があります。

 そう。
 私は、悪くないはず、です。

 けれども、私は──

 『今後一切私に関わらないでください。迷惑なので』
 『……』

 何も言わずに目を伏せた彼の表情を見た瞬間から、ずっと。

 罪悪感が消えないのです。