「……(一応写真撮っとくか……)」
檻の中でしゅんとしている後ろ姿にカメラを向けたその時、にゅん、と何か別の影が入り込みます。
「倉橋さーん、何してんの」
特徴的なタレ目が、カメラのレンズを覗き込みます。
早川さんです。
「こら、早川。倉橋さんの邪魔すんな!」
早川さんの制服の首根っこを捕まえた丹生さんが、引っ張ります。
「ごめん、倉橋さん」
「いえ」
「なにすんの丹生。私、普通に話しかけただけなんですけど」
唇を尖らせて、早川さんが私の隣にやってくると、柵の手すりにもたれかかってウォンバットのフクくんを眺めます。
「あ~あ、可哀そうに。あんな落ち込んだ顔しちゃって」
「……」
「見てるこっちが居たたまれなくなってくるわぁ~」
「……」
「てか、なんであんなに落ち込んでるんだろうね。あ、ひょっとして〜……飼い主に愛想つかされちゃったせいかな?」
「……別に私は飼い主では」
「ん~? 私が言ってるのはフクくんのことだけど」
「……」
「心当たりがあるん? 倉橋さん」
にんまり、とわざとらしい笑みを浮かべた早川さんと顔を突き合わせます。してやったり、と言いたげな飄々とした表情です。
不覚です。誘導されました。
「ま、まあまあ。どうせだったら、3人で写真とろうよ、写真!」
「遠慮しておきます。写真写り悪いので」
「あらら残念」
「──早川、丹生ちゃーん、こっちで写真とろ~」
数メートル先の広場でクラスの女子がこっちに向かって手を振っています。丹生さんが助かったと言わんばかりに手を振り返します。
「はーい。今行く!」
「じゃあね、倉橋さん」
「……はい」
「ペットのアツムくんのこと、あんまいじめないであげなね」
私が反論する間もなく、ひらひらと手を振って早川さんと丹生さんは去っていきました。



