それから俺は鼻の下を伸ばして倉橋さんに近づく野郎たちを徹底的に、邪魔をした。
「倉橋さ〜ん、よかったら勉強教えてくれない?」
「……」
「倉橋さん忙しいって!」
「いや、坂本には聞いてないけど」
「……すいませんが、教えるの得意じゃないので」
「勝手に1人で勉強しとけやボケェ! やって」
「……(そこまでは言ってない)」
「倉橋さん。怪我したんだけど、保健室連れてってくれない?」
「こんくらい唾つけとけば治るで!」
「……」
「えーでもすげえ痛えし──いだっ、お前っ! 今脛けっ、」
「ホンマや重症。担いでやらんと! 倉橋さんじゃ無理やから俺が連れて行くわ」
「……どうも」
「……あのさ、俺……倉橋さんのこと、正直、」
バンッ!
「倉橋さん!! 先生呼んでたで!」
「えっ、ちょ、」
「今すぐ来てくれって言ってたで!!」
「……はい」
「今度の日曜さ、もしよかったら……、」
「なんの話してんの〜? あっ、これ今度公開される映画やん。俺ちょうど見たかってん」
「彼が見たいそうです」
「なんや〜〜それなら誘ってや〜〜〜! いつ行く!?」
「え、違、」
「それでは」
翌る日も翌る日も、懲りもせず倉橋さんを狙う男どもは、倉橋さんのところにやってきてはちょっかいを掛ける。
しかも厄介なことに奴ら、倉橋さんが1人になった隙を狙ってやってくる。
そうなったらもう、倉橋さんの行く先に全てくっ付いて回るしかない。雛鳥のごとく。
ある時は、放課後。
「……」
「倉橋さんどこ行くん?」
「……図書館ですけど」
「俺も行く!」
「……」
ある時は、お昼時。
「……」
「倉橋さーん、待って!」
「なんですか」
「ご飯食べるん? 俺も行く」
「……」
ある時は、廊下で。
「……」
「倉橋さん、どこ行くん?」
「……先生に頼まれたので」
「俺も行く!」
「……」
そして、ある時は──
「倉橋さん、倉橋さん」
「……」
「どこ行くん? 俺も行く」
「…………坂本くん」
数歩前を歩いていた倉橋さんがぴたりと足を止めて、こちらを振り返った。その瞬間、ヒュッと喉の奥を締め付けるような息が漏れた。
「──今後一切私に関わらないでください。迷惑なので」
6日目。
倉橋さんが、ブチギレた。



