「坂本さあ、倉橋さんのことどう思ってんの?」
「坂本〜、ちょっと聞きたいんだけど、隣の席の……」
「倉橋さんって、どんな奴がタイプなのか知ってる?」
「ぶっちゃけ、倉橋さんって彼氏いるのかな」
その日、俺の元に代わる代わるやってくる野郎どもをあしらいまくっていた。
そいつらが一貫して質問してくるのは倉橋さんに関することだ。
しかも驚くことに、野郎どもは同じクラスのやつだけでなく、他クラスのやつ、はたまた学年がひとつ違う奴まで聞きにくる。
さらに腹立たしいのは、全員倉橋さんの笑顔に当てられて、浮かれた顔をするやつばっかなこと。
「倉橋さん、そーゆーの興味ないんちゃうかな。知らんけど!」
「たぶん、知らんとこで自分のこと探ってくる男とか嫌いやと思うけどな、知らんけど!!」
「てか、気安く話しかけてくる男とか死ぬほど嫌いやと思う。……知らんけど!!!」
☺︎
「坂本〜」
「……(イラァ)」
「おーい、坂本」
「だァかァらァ、知らんけどって言ってるやん!!」
「び、びっくりした」
本日五度目、不躾に肩を叩かれて俺は勢いよく振り返る。そこには見開いて驚く友人、糸井が立っていた。
「……なんや、糸井か」
「どした? 嫌なことでもあった?」
「嫌なこと……。別にそんなん、ちゃうけど」
「そんなヤケクソに水撒きしといて?」
「へっ?」
糸井に指摘されて初めて気づく。
俺が手にしていたホースからものすごい勢いで水が吹き出して、あたり一面水溜りができるくらいびちゃびちゃだ。
慌ててホースの口を押していた指を離す。
知らんうちに結構な指の力で押してたらしい。
おまけにシャツの裾まで濡れてる。通りでなんか冷たいなと思った。
濡れた裾を捲り上げていると、その横から生暖か〜い目線が降り注がれる。
「……青春やんな〜」
「は? 急になんやねん。サブイボでるからやめえやそれ。イントネーションちゃうし」
「ちゃわんし」
「ちゃうし! てかなんやねん、用あったんとちゃうの」
「あ、そうだったそうだった。ほら、あれ」
糸井が指差した方向を、辿るとそこには──渡り廊下あたりで大きなゴミ袋をふたつ両手に持つ倉橋さん、……と、親しげに話しかける小野寺がいた。
「さっきから小野寺が倉橋さんに絡んでるから、一応報告」
「……」
こっ、こんの〜〜〜ッ!!
小野寺ァーーーーーーーーー!!!
今朝の一件から早速かい!!! 手ェ早すぎんか!!!!???
てか、距離近いねん!!!!!
なにそんな顔近づけてんねん!!!???
はぁ!!!??? なにわろてんねん!?!?!? 近ッ!!! 倉橋さんからあと3メートル離れろやッ!!!!!!!
大体、ちょっっっと倉橋さんが笑いかけてくれたからって、すぐその気になってんの単純すぎんねん小野寺ァ!!!!!!
……って。
それは俺もやないか〜〜〜〜い!!!!!



