隣の席の坂本くんが今日も私を笑わせてくる。


 坂本くんご臨終から土日を挟み、本日週初め、月曜日です。

 「おはよう、倉橋さん」
 「……おはよう、ございます」
 「もう7月やのにまだ全然梅雨やね。じめじめするわ〜」
 「……そうですね」

 坂本くんといつも通りの短い挨拶を交わします。鞄から教科書やらを取り出し授業の準備を始めます。

 「今日の数学って課題、プリント一枚だけやったっけ?」
 「はい」
 「ヨカタ〜、なんとか3限までに終わらせんと」
 「……」

 ……おかしいです。坂本くんが。

 いえ、普段であればまったく問題はないのです。

 強いて言えばおかしいのは私の方です。
 土日を挟んでも私の表情筋は絶賛活躍中です。

 そう。
 私は今絶え間ない笑顔を讃えているのです。

 しかし、どうでしょう。
 今私の横に座る男は、至って平常心のように見えます。

 金曜日の彼は、私を見れば事あるごとに顔面をりんご瓜二つに染めて、「もうやめて……」「あかん……」「許して……」「死ぬ……」と、両手で顔を覆っていたのです。

 今思い返すとまるで私が彼に下劣な行為を働くお代官様みたいですが、誓って全くそんな事実はありません。

 「……坂本くん」
 「んー?」

 私の呼びかけに坂本くんが振り返ります。

 ふん。平静を装うのもそこまでです。
 さあ、刮目せよ!

 私渾身の微笑みを目の前にして、坂本くんは──困ったように笑いました。

 「ええ〜なによ〜?」
 「……」

 そこに、金曜日のテンパリにテンパりまくっていた坂本くんの面影はどこにもありません。

 「……いえ。呼んでみただけです」

 彼のいつも通りの対応に、なんだかこちらの方が気恥ずかしくなり、私はすぐさま窓側に顔を逸らしました。

 おかしいな……金曜日の彼は一体何処へ……?

 首を傾げる私のすぐ隣で、歯を食いしばって必死に感情を押し殺す人間がいたとも知らず、どんよりとした空を見上げるのでした。