立ち上がった坂本くんがノロノロとした足取りでやってきます。首に手を当てて、耳まで赤くした顔が申し訳なさそうに項垂れます。
「……ごめん、倉橋さん。無理にお願い聞いてもらったのに、嫌なこと言うて……。その……あんな、要するに俺が言いたかったのはっ、」
不意に、表を上げた彼の瞳と目が合います。
「倉橋さんは、自然に笑うときが……一番、可愛い」
「──」
そう言えば、坂本くんの瞳をちゃんと見たのは初めてかもしれません。
何故だか、吸い寄せられる真剣な眼差しから、目が離せません。鼓動を脈打つ音が邪魔で、何を言うべきか、頭の中の整理が追いつきません。
ああ、けれど。
特訓の成果でしょうか、勝手に口元が緩んでしまうのは。
今、私とてつもなく、情けない顔を晒している気がします。
「……そんなこと言うのは、坂本くんくらいです」
数秒の間を置いて、坂本くんはすっと両手で顔を覆いました。
「……」
「……坂本くん?」
「……」
「……あの、早川さん。坂本くんが動かなくなりました」
早川さんが、ぽん、と私の肩を叩くと時計を確認したました。
「10時35分、ご臨終です……」
「死んじゃった……」



