早川さんが私の背後に立つと、いきなり両頬を指でつついてきます。
「坂本ぉ、日和ってんの~? 滅多に拝めない倉橋さんの微笑みを目に焼き付けんくてええんか~?」
「……別に日和ってへんし」
「そんなそっぽ向きながら言われてもねぇ? あ~あ、倉橋さん可哀そう。せっかく昨日笑顔の練習いっぱいしたのに。坂本が笑顔にケチつけるから」
ぴくっと坂本くんの肩が跳ねます。
早川さん急に何を言い出すかと思えば……、その言い方は正しくありません。
まるで私が坂本くんのために笑顔の練習をしたみたいではないですか。語弊にも程があります。
「……私は、別に坂本くんのためでは、むぐっ」
何を思ったか、早川さんが私の両頬をむにっと引っ張ります。
弁解の余地を奪われました。早川帝国は言論統制まで行われているようです。とんだ邪知暴虐の国です。
坂本くんは早川さんの言葉を間に受けてしまったようで、さっと顔を青くします。
「……ご、ごめん……そんな気負わせるつもりで、言うたわけじゃなくて……」
「謝るときは人の目見て謝れって、学校の先生に教わらなかった?」
「うぐっ」
「(早川さん……中々に鬼畜です)」
早川さんの黒い笑顔が光ります。
前々から思っていましたが、この人、絶対にドSです。



