「ま、まあまあ。ちょっっっと笑顔がぎこちないかもしれないけどさっ、練習したら全然良くなると思うよ!」
「丹生さん……ちょっっっとの間にかなりの含みを感じるのは気のせいですか?」
丹生さんは目を逸らします。
「……鏡とか見て練習するといいんじゃないかな! あたしの鏡貸すよ! 今から練習しよ!」
「いや、私は別に……」
いいです、と言いかけましたが、冷静になって考えてみます。
将来のなりたい姿は曖昧ですが、どんな職業になるにしろ、この作り笑いでトラブルを乱発しそうなのは流石にまずい気がします。
「……お手数でなければ、ご教示願います」
下げた顔を戻すと、ふたりは少しだけ目を見開いて顔を見合わせました。
彼女たちの中でどんな意思疎通があったのかは分かりませんが、うんうんと頷き合った後、返事の代わりに親指をグッと突き立てたのでした。
そして二時間後。
「……おっ、お、おお〜〜……!?」
「そ、それだぁ〜〜〜〜〜!!!!」
げっそりした2人が盛大な拍手を送る中──私は、鏡に映る自分の顔をじっと眺めました。
自然に上がった口角。
程よく血色感のいい頬。
柔らかく細められた瞳。
我ながら完璧な笑顔を浮かべる自分が映っています。
「なるほど……これが、笑顔……」
「ベストスマイル賞受賞おめでとう(やっと帰れる……)」
「まっじでおめでとう(やっと帰れる……)」
これで反社以外の就職口が見つかりそうです。
そうして安堵した私は、ふと、気づきました。
「……ところで。一ついいですか?」
「どうした?」
鏡をテーブルに置いて、微笑みを顔に張り付けたまま口を開きます。
「表情が戻らないんですけど、これはどうしたらいいですか?」



