早川さんは涙目になるほどの大爆笑をかました後、指で涙を拭いつつ、問いかけてきます。
「ッハァーー……ちなみにどんな感じで笑ったん?」
「……」
やりたくない、と言う私の意思を感じとったらしい早川さんは「逆らう人は没収しまーす」と、私の目の前に置かれたフォンダンショコラを自分の方へ引き寄せます。
とんでもない暴君です。
早川帝国では許される暴挙なのでしょうか。
流石に目の前のケーキを人質に取られてしまっては彼女の命令に背くわけにも行きません。
私は坂本くんへ笑いかけたのと同様、頬の筋肉を総動員してニッコリ微笑みました。
いち、に、さん。
私の笑顔をふたりが凝視した後、ふたりは何もみていなかったようなそぶりでメニュー表を手にしました。
「……サッ、追加で何か頼もっかな〜。な、丹生」
「うん。そうしよ。ポテトとか頼も」
「……」
彼女たちと私とを隔てるメニュー表の壁を眺めます。
「感想は?」
「……」
「……」
「何故目を逸らすんですか? ちゃんと見て感想を言ってください」
「……」
「……」
「ご所望の笑顔ですよ。ほら、感想を言え」
メニュー表の端を掴んで壁を取り去ろうとしますが、頑なに手放さない早川さんとの引っ張り合いになります。
しばらく彼女との小競り合いが続いたのち、メニュー表をパタンと倒した早川さんが深々と頭を下げました。
「気軽に笑ってとか言ってすいませんでした」
「……」
何と言うことでしょう。
私の笑顔で人に頭を下げさせることができるようです。
将来就活で特技の欄に書いたら即採用かもしれません。主に裏社会の方々から。
近年稀に見る逸材です。全然嬉しくありません。



