「気分がいいので、特別に頭を撫でるのを許可します」
「……光栄やわ。ありがとう」
少し屈んだ彼女のつむじが見える。
左右に動く猫耳は、宿主が緊張しているのかぴんと立ち上がっていた。
ちょっとだけ躊躇ってから、手を乗せてみる。
キヨコを撫でている要領で、耳の付け根あたりを優しくなでつけると、猫耳が徐々にぺたんと伏せられていく。床に落ちたしっぽの先がたん、たん、と柔いリズムを刻む。
相当に心地が良かったのか、いつもはぴくりとも動かない表情筋がふにゃふにゃになっている。
……あかん、めっちゃ写真撮りたい。
でもそんなことしたら、倉橋さんは二度と撫でさせてくれない気がする。いや、たぶん絶対そう。
誘惑と理性の間で揺れ動く俺の心を知ってか知らずか、倉橋さんはじいっとこちらを見上げて、いった。
「……にゃー」
……ず。
「ずっ、ずるいやろそんなのーーーーー! いっだ!」
唐突に額のあたりに固いものが激突した。すぐさま鈍い痛みが走る。
額を押さえつけてうずくまると、視界の隅に漫画が落ちているのが見えた。ベットのちょっとした棚に置いていた漫画が顔面に落っこちてきたらしい。
と、いうことは、さっきの全部。
「……夢かーい……」
天井をぼーーっと見つめて、ようやく現実世界の輪郭がはっきりしてくると、寝ぼけていた頭もクリアになる。
じわじわと熱くなっていく顔を思わず押さえた。
「重症や……俺ぇ……」



