「く、倉橋さん!?」
なんで、こんなとこに倉橋さんが!?
いつもの制服姿で俺と目線を合わせるようにちょこんと座る倉橋さんが、首を傾げた。
俺んちに倉橋さんがいるってだけでおかしいのに、さらにその時、俺の視界にはありえないものが映りこんできた。
「……く、倉橋さん……そ、それ」
「?」
「その耳としっぽ、どしたん!?」
黒い毛並みの耳と、ゆらゆらと自由に動くしっぽが倉橋さんの頭と腰についている。
にゃ~ん、と効果音が聞こえてきそうなくらい本物そっくりなやつ。
「ああ、これですか」
倉橋さんは指先で耳の先をちょんちょん、と突いた。
「似合ってないですか?」
「にっ……似合っと……る、けど」
全然表情は変わらんけど、倉橋さんのしっぽがご機嫌に大きく揺れる。
ちょお、待って。なんなん、それ。
「じゃあ、キヨコさんより、かわいい……ですか?」
心臓が痛いほど跳ねて、思わず胸のあたりをぐっと押さえた。
なんなんそれ~~~~!?
なんで急にそんな可愛いこと言い出すんこの子は!? 俺の心臓止める気なん!?
不可抗力の攻撃をもろに食らって、心臓の鼓動が全く鳴りやまない。
照れを通り越して無反応だった俺が気に食わなかったのか、倉橋さんはむっと口をへの字に曲げて、眉を寄せた。
「かわいくないですか?」
もうすでにその質問がかわいい。
「……メッチャカワイイデス」
「こっちみて言って」
この子、ほんと……俺のこと、どうしたいん。
振り返ると、こてんと首を傾げた倉橋さんと目が合う。
すぐさま目を逸らしたいけど、そうしたら倉橋さんはたぶん怒るし口を聞いてくれなくなる。俺はけなしの勇気を振り絞った。
「…………、可愛い」
「……」
「……もう、これで勘弁して……」
「ふふ」
くすりと倉橋さんが笑う。
花が綻ぶみたいに、って枕詞が似合うほど、嫋やかな笑みだった。
そして、一度目に焼き付けてしまったらもう二度と忘れられない劇薬のようでもあった。



