「……坂本くん?」
あまりに反応がないので、不審に思ってさらに顔を覗き込んだとき──ぼっと、爆発しました。
りんごくらい真っ赤に染まった坂本くんがわなわな口を震わせます。
「なっ、なんでっ……こんなっ、」
「説明が必要ですか」
「そっ、れは……!」
何かを言いかけて、結局何も言わずに視線を右往左往。やがて、顔を伏せた坂本くんが、ぽつりと言葉をこぼします。
「……だって、こんなとこ見られるん、カッコ悪いやん……」
「最近の坂本くんは、カッコ悪い……というか、カンジ悪かったですけど」
「うっ」
私の言葉が相当に響いたのか、高架橋の下に捨てられた段ボールの中で凍える子猫みたいな弱弱しい声音で言いました。
「……ごめん」
私は一度ため息をついて、捕まえていた彼の手首を離しました。
「で。今度はなんだったんですか」
「…………、倉橋さんが笑ってくれた時から、俺、ちょっとおかしいねん」
今にも消え入りそうな小さな声で、坂本くんは言葉を紡ぎます。
「家帰って、飯食ってても、風呂入ってても、倉橋さんのことばっか思い出してしまうんよ。考えんようにしようって思うほど、あん時笑ってくれたこと思い出して、そしたら、もう、なんかずっと、頭から離れんようになって」
「……」
「こんな状態で倉橋さんと目ぇ合わせたら、絶対心臓持たんくなるってわかってたから、ずっと避けてた……」
「……」
「あかん……言葉にしたらめっちゃ恥ず……」
両手で顔を覆い隠した坂本くんの、隠れていない耳が触れたら火傷しそうなほどに赤く染まっています。
「坂本く、」
「まっ、待って! なんも言わんで! 自分でも頭おかしいって分かっとるから!」
「……坂本くん」
指の隙間から、熱を含んだ潤んだ瞳がこちらを捉えます。
「……な、なに」
聞きたかった言葉が喉の奥まで出かかっています。
けれど、躊躇ってしまう自分が奥底に潜んでいるのです。
分かりません、どうしてこんなに言葉に出すのが怖いのか。今までこんな感情になったことがないから、分かりません。
私は深く息を吸い込んで、ゆっくり胸を撫で下ろしました。
「──それは、私を通してキヨコさんを見ているからですか」
どくん、どくん、と耳の奥でうるさいくらいに鳴り響いています。



