保健室は、体育館から渡り廊下を通り、第二校舎の一番奥側にあります。
私が先頭を、その後ろを5歩ほど離れて坂本くんが続きます。
もちろん、会話はありません。
第二校舎の一階は、職員室や生徒指導室といった教員用のフロアのため、授業中は余計に静かです。
「く、倉橋さん」
「はい」
「俺、大丈夫やから。無理に付き添わんくてもええよ」
「……坂本くん」
「うん」
「黙って付いて来い」
「……はい」
坂本くんを一言で黙らせ、保健室の前まで到着しました。
☺︎
「失礼します」
保健室のドアを開けて、中を覗きます。
しかし、どうやら保健の先生が見当たりません。どうやら不在のようです。
「とりあえず、中に入りましょう。冷やすものを探しま……、」
振り返った先で何を思ったか坂本くんは、着ていたジャージのチャックを一番上まで閉じて、頭まで覆い隠していました。
小学生男子がよくやるスタイルです。
一瞬気取られましたが、なんとか正気を取り戻します。
「何してるんですか」
「……オオアリクイのモノマネ」
「そうですか。オオアリクイでもなんでもいいんで、とりあえずそこの椅子に座ってください」
「……はい」
おぼつかない足取りで誘導されるままに椅子にちょこんと座るオオアリクイ(坂本くん)。
備え付けの冷蔵庫を開けると、冷凍庫の引き出しに手のひらサイズの保冷剤が何個か入っています。それを一つ手に取り、横のカゴに整然と並べ慣れたタオルに包みます。
彼の目の前に座ります、が。
依然として、彼の顔はジャージの奥へ引っ込んだままです。



