「じゃーん! 無事ゲットしました〜!」
「はあ……おめでとうございます」
翌朝、文字通り“パン祭り“だった日々からようやく解放されて、昨日応募用紙と引き換えてきた皿の写真を、倉橋さんに見せる。
倉橋さんの反応は予想通り、透かし紙より薄い反応だった。
「思ったよりファンシーなお皿ですね」
倉橋さんがそう言うもの無理はない。
引き換えてきた皿は、デフォルメされた猫の形をしたもので、真ん中にパンをこねる猫がプリントされた、通称“こねこねこぱんシリーズ“だから。
「猫、好きなんですか?」
写真をじいっと覗いていた、黒い瞳がこちらを向く。
「……えっ? う、うん」
……他意は、ない。
他意は、ない、から。
「結構、すき、やで……?」
だから、あんま、うるさくせんといてくれ。俺の心臓。
「あ、ありがとうな。協力してくれて。助かったわ」
「たまたまです」
もうすぐ、朝礼の時間がやってくる。
スマホの電源を落として、机に置く。
鞄の中から教科書やらノートやらを取り出しつつ、これでようやくパン祭りから解放されるで、と肩を撫で下ろしたその時。
「それ」
「それ?」
倉橋さんが指さす方向を辿り、固まる。
「……アッ、ああああ!?」
バンッ!
豚の尻尾くらいの勢いで自分のスマホに手を叩きつけて隠す。
俺の勢いに蹴落とされた倉橋さんが目をぱちぱちさせる。
そうやった!!
貰ったシール、スマホにはりつけたまんまやった……!
「こっ、これは……その……」
こう言う時に限って、上手い言い訳が思いつかない。
あたふたする俺を不審に満ちた瞳で眺めていた倉橋さんが口を開く。
「ひょっとして、」
心臓がうるさいくらい飛び跳ねた。
倉橋さんの続きの言葉を待つまで、途方もない時間がたったと思うくらい。
「……2枚目を?」
「………………、そうやで!」
色々なものを全て飲み込んで、力強く頷いた。
後日談。
辻褄合わせのために始まった地獄のパン祭りは、翌週まで及んだ。



