隣の席の坂本くんが今日も私を笑わせてくる。


 「あかん……白米恋し……」

 2日連続の菓子パン生活に早くも飽き飽きして、パン片手に机に突っ伏していた時だ。

 とんとん、と机を指で叩く音がした。

 首だけ動かして視線をやると、見覚えのあるピンク色の丸いシールが机の角にぺたりと貼られている。

 「あげます」

 抑揚のない平坦な声が降りかかってきた。
 倉橋さんだ。

 驚いて顔を上げると、いつもの無表情で倉橋さんが立っていた。

 「……ええの?」
 「はい。私はパン祭りやってないので。足しにしてください」
 「あ、ありがとう」

 頭を下げる。
 
 顔を上げるとすでに倉橋さんは次の授業の準備を始めていた。が、俺の視線が刺さるのが居心地が悪かったのか、こほん、と咳払いをした。

 「……今日はたまたま、お昼ご飯にパンを買ったので」
 「そっ、…………かぁ」
 「いらないなら返してください」
 「いやいるいる!! めっちゃいる!!」
 
 慌ててシールの上に手のひらを被せてガードする。

 倉橋さんは、そうですか、とだけそっけなく言うとそっぽを向いてしまった。

 彼女の横顔の輪郭が、まろい陽気な昼下がりの光で柔く照らされている。

 それは、昼飯買う時、俺のこと思い浮かべたってこと?

 そんなこと聞いたら、彼女は一生口を聞いてくれなくなりそうで、口が裂けても言えない。

 貰ったピンク色のシールを応募用紙に貼り付ける──が、手が止まる。なんだか無性に勿体無くて、スマホカバーの裏面に、ぺたりと貼り付けた。