「坂本くん」
「……」
「坂本くん、好きです」
「……」
「坂本くんのことが、好きです」
「も、もう……わ、分かったからぁ!!!! も、もう十分、伝わったっ……!!!!」
辛抱たまらんと言った感じに、白旗を上げた坂本くんが、顔を上げます。
彼の赤く潤んだ瞳がどうしようもなく、胸を締め付けて、奥底にあった感情が溢れてきます。
「…………好きなんです。あなたのことが」
「ちょお、もう……勘弁して……死んでまうから……!」
そこまで言われてしまうと、流石に黙るしかありません。でも、彼の返事が気になって、迂闊に視線が逸らせません。
目は口ほどにものを言う、という諺の通り、私の熱視線に耐えきれなくなった坂本くんが、ついに口を開きました。
「…………少しだけ、返事、待ってほしい」
「……」
「……」
「……」
「……」
「何故ですか?」
「なっなんで!!??」
予期していなかったらしい私の質問に坂本くんが狼狽えます。私だって予期していませんでした。
「そっ、それは……その……気持ちの整理が付かんくて……?」
坂本くんは、口をもごもごさせて歯切れ悪くそう答えました。一目でわかりました。絶対嘘です。
「私のことが好きなのに?」
「すっ!? 〜〜〜!!!! そっ、そうなんやけどぉ!!!!!!!」
「私が他の人に取られてもいいんですか?」
「それは絶ッッ対嫌や!!!!!」
食い気味に否定した坂本くんが、ハッと我に返ったように顔を顰めます。それから何かを悶々と考え込んだ彼は、苦しげに声を絞り出しました。
「……今の中途半端な状態じゃなくて、ちゃんと向き合いたい、から」
彼の真剣な眼差しから、目が離せません。
その瞳に嘘は何一つないのだと、物語っています。
「だから、全部の問題が片付いたら、もっかい俺から告白させて欲しい」
しばらく見つめ合い、折れたのは私の方でした。
「いつまで?」
「……ゔ。それは、何とか、冬までには……」
「しょうがないひとですね、坂本くんは」
「……ごめん。口先だけやって思われるかもやけど、ほんまに、」
「信じます」
立ち上がった私は、つられて私を見上げた彼に向かって手を伸ばしました。乗せられた彼の手のひらを引っ張り、彼が好きだと言ってくれた笑みを浮かべて、言ってやったのです。
「だって、私が惚れた男の言う事ですから!」
──などと、大見栄を切った私が、このあとどれほど後悔する事になるか、この時は知る由もありませんでした。
「え」
ポトリと落ちた私の鞄から、ゴマあざらしのキーホルダーが揺れます。
早川さんが気まずそうに私から目を逸らして、先ほどと同じ言葉を繰り返しました。
「えっと、その……倉橋さんが風邪で休んでる間に、坂本と丹生が文化祭実行委員になったんだよね……」
私の恋はどうやら、前途多難のようです。



