線香花火の丸い玉がパチパチ弾けながら、光の線が幾重にも走らせる。ふたり、肩を寄せ合って、儚い燈を眺めた。
「倉橋さん、知っとる?」
「何がですか?」
「線香花火が最後まで落ちずに火が消えたら、願い事が叶うって」
「そうなんですか?」
「んん〜、俺、今まで落ちんかったことないから、分からんねん」
「ふふ。じゃあ、最後の線香花火は願い事してからやりませんか?」
「うん。そうしよ」
倉橋さんが手のひらに乗せた残り二本の線香花火の片っぽを受け取る。
手にした花火を前に、何を願うべきか考えたけど、一向に思い浮かばない。横目で彼女を見やると、両手で線香花火を握り、目を閉じていた。
すると、ゆっくりと瞼が開き、視線が交わる。
綿菓子よりも柔く目を細めて、首を傾けた。
「ちゃんと願い事しましたか?」
「……、うん」
最後の一本にライターの火を灯すと、下から俺たちを照らす。
最初は小さかった火の玉は、瞬く間に大きくなった。
指先の小さな震えでさえ、紐の部分を伝って火玉が揺れる。
俺も、倉橋さんも、じっと線香花火の行末を見守る──が、その時、ヒュウと吹いた強い風が全てを攫っていく。
「……あ」
「ああ……」
地面に落ちた燃え滓から、光が消えた。
「やっぱ駄目か〜」
ガックリ肩を落とす。
倉橋さんも心なしが元気がない。あんなに真剣に願い事しとったもんな……。
「……じゃ、片付けて帰ろか」
しんみりした空気の中、後片付けを始めた俺の背後から声が掛かる。
「坂本くんは」
「ん?」
「坂本くんは、どんなお願い事をしたんですか?」
「えっ? んんん……」
まさかそんなことを聞かれるとは思っていなくて、言葉に詰まる。倉橋さんの視線はずっと俺から外されることはない。こういう時の倉橋さんは、適当に考えた言葉では誤魔化されてはくれないだろう。
俺は照れ臭くて、大袈裟に咳払いをした。
「今日で俺の叶えたい事、全部叶ったようなもんやし……せやから、」
顔を上げて、ぎこちなく笑って見せる。
「倉橋さんの願い事が叶いますように、って……お願いした」
大きく目を見開いた彼女が、そこにはいた。
彼女は、胸に置いた手のひらを握りしめて、それから、俺の聞き間違いでなければ、こう言った。
「──好きです」
「…………………………、ぇ?」



