隣の席の坂本くんが今日も私を笑わせてくる。


 駅前の百均で買ったバケツとライターを手に、倉橋さんの家のすぐ近くにある公園へやってきた。

 ブランコと、滑り台と、砂場があるだけの小さな公園だ。小さな子が遊んで忘れていったのか、砂場には小さなスコップとバケツが転がっている。

 俺と彼女以外に人影はなく、ポツンと立つ街灯の真下に水を入れたバケツを置いて、広げた花火を手に取る。

 ライターの火が花びらの部分に移って、眩い光を放つ。赤、緑、黄に変化しながら、燃え尽きる最後の一瞬まで、キラキラと輝いて見えた。

 「あ、やばい、もう消えそう。倉橋さん、お裾分け」

 新しい花火を手にした倉橋さんが、消えかけの火種に花びらを近づけると、再び火が灯る。

 パチパチと音を立てて、倉橋さんの横顔を明るく照らした。

 伏せた睫毛で落ちた影は、名の通り、火のついた花の如く、彼女の瞳の中に星屑のような光彩を宿す。

 一分、一秒。
 瞬きすることすら、惜しいと思うほど──どうしようもなく、綺麗だと思った。

 ついに火種が落ち、天に向かって立ち昇る煙を見上げていた彼女が、んん、と咳払いをした。

 「……見過ぎです」

 惚けていた意識が戻る。
 火がついたみたいに顔が熱くなって、顔を逸らした。

 「ご、ごめん」

 少し間を置いて、隣から澄ました声がした。

 「……まあ、悪い気はしませんけど」

 ズッキューーーーーン!!!!!! 

 キューピッドの矢が心臓にブスッと刺さったんじゃないかと思う程の衝撃に、俺は片膝をついて胸を押さえる。

 やばい、ほんとに今日の倉橋さんの破壊力半端ない。
 俺の心臓ほんとに保たんて……!!!!!!
 おかしなるって!!!!!

 バックバクに暴れ回る鼓動を誤魔化すよう、花火に手を伸ばす──と、ちょうど同じタイミングで彼女の小指が触れる。桜色の小貝のような爪が、ぴくりと震えた。

 「……あっ、ご、ごめん」
 「い、いえ」
 「先、選んでええよ」
 「ありがとうごさい、……あ」
 「? どうしたん?」

 逸らした顔を戻すと、倉橋さんの手元には、線香花火が数本だけ握られていた。

 「これで最後みたいです」