隣の席の坂本くんが今日も私を笑わせてくる。


 最寄駅に着くころには、日は落ちて、帰宅する人たちで溢れていた。

 夢のような時間は、もう、終わりだ。

 繋いだ手を離して向かい合うと、倉橋さんと目が合う。

 彼女は気づいているんだろうか、今自分がどんな顔で俺を見上げてるのか。

 ひょっとして、試されてるんやろうか。
 俺がどれくらい我慢できるのか。

 俺は湧き上がる未練を抑えつけるように、息を吐く。

 彼女が引いた境界線を飛び越える勇気は、まだない。

 「じゃあ、また明日。学校で」
 「……はい。また、明日」

 後ろ髪を引かれる思いで、踵を返した。
 一歩、一歩、と彼女と離れるたび、抑えつけたはずの未練が顔を出す。

 「(今日で、夏休みが終わる)」
  
   「(明日になったら、ただのクラスメイト)」

 「(もう少しだけ、一緒に)」
 
   「(まだ、終わらせたくない)」

 「(今、振り返れば)」

   「(今、引き留めたら)」

 「(坂本くんと、)」
 
   「(倉橋さんと、)」

 「──あ、」
 「──あ、」

 勢いよく振り返った先で、再び彼女と目が合う。それだけで俺の世界は鮮やかに色づく。彼女だけが、一番星のように特別輝いて見える。

 気がついたら、足は駆け出していた。

 「く、倉橋さん!」
 「……はい」
 「え、えと……(あかん!!!! やばい!!! 何考えてなかった!!)」
 「花火」
 「え?」

 倉橋さんが手に持っていた景品の袋を、俺の前に翳した。

 「花火、しませんか」