隣の席の坂本くんが今日も私を笑わせてくる。


 「おはようございます、坂本くん」
 「……おはよ、倉橋さん」

 走ったせいだろう、艶やかな髪が彼女の口に入ってしまっている。

 俺は、その髪を指先で掬い取り、耳にかけた。耳に指が触れると、少しだけ俺の熱が移ったように熱くなる。

 俺を見上げる瞳の上には、キラキラしたラメが乗っている。口を彩る色も、いつもよりも鮮やかに見えた。

 それに、制服じゃない倉橋さんを見るのは、お祭りの時以来だ。淡い花柄のワンピースが白い肌に映えて、より一層彼女に惹きつけられる。

 「……綺麗やね、倉橋さん」

 譫言みたいに漏れ出た声に、ハッと我に帰る。

 今俺、めっちゃ小っ恥ずかしいこと口走ってない!!!???

 弁解の言葉が口から出かけたけど──、すんでのところで止まる。


 だって、倉橋さんが目をまんまるくして、顔を真っ赤にしてたから。


 初めて見る表情に思わず釘付けになる。

 そんな俺の視線に気付いた倉橋さんは、すぐにそっぽを向いてしまった。

 「…………、ばか」

 人混みの中で、聞き逃してしまうほどの小さな声でそう呟いた。

 彼女の耳が、さっきよりも赤く染まっていることに気づいて、俺は天まで上がりそうになる口角を、頬の内側を噛んで何とか我慢した。

 「倉橋さん、ちょお待って!」

 改札口へ向かって歩き出す背中を小走りで追いかける。

 やばい。今日……、俺の心臓持つんかな……。